TPP International Agreement: With the US in Disarray, There’s No Need To Rush

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TPP国会承認/米国は混沌、急ぐ必要ない

 急ぐ必要はないのではないか。混沌(こんとん)とした米国の状況を見れば、そう言いたくなる。

 環太平洋連携協定(TPP)の発効に向けた国内の承認手続きである。

 安倍政権は9月召集の臨時国会で、継続審議となっているTPP承認案・関連法案の成立に全力を挙げる方針だ。しかも11月までに、その目星をつけたいという。

 米国のオバマ大統領が、11月の大統領選後に開かれる議会で、自らが退任する来年1月までのTPP承認・批准を目指しているからで、日本が先鞭(せんべん)をつけることでオバマ政権を側面支援する考えだ。

 協定の発効には、経済規模が大きい日米2カ国の承認が必須の条件だ。日本が先行して既成事実とすることで、米国に対し、発効に向けて後戻りはできないとの「圧力」をかける狙いもある。

 だが、そうした思惑をよそに米国の状況は全く予断を許さない。次期大統領の座を争う民主、共和両党の候補は反対のトーンを強めている。

 「TPPは製造業を壊滅させる」と主張する共和党のトランプ氏は、TPPからの「脱退」を宣言。民主党のクリントン氏は「TPPは職を奪う」とし、大統領になっても反対する考えを強調した。

 同調し反対に転じる議員が続出しているという。一方、上下両院で過半数を占める共和党の実力者は、反対ではないものの「再交渉」を求め、協定内容を修正しなければ議会審議に応じない構えだ。

 オバマ氏が目指す退任までの批准は、困難な情勢にあると言わざるを得ない。

 両党の大統領候補が反対する背景には、貿易自由化で製造業が衰退し雇用が失われたと不満を抱く労働者層の支持獲得を図る狙いがあり、「内向き」の議論には違いない。

 TPPには、中国が台頭するアジア・太平洋地域で、安全保障に加え経済でも米国の存在感と影響力を高める狙いがある。大統領に当選した暁には、「外」に目を向け、TPPを巡る姿勢を転換する可能性がないとはいえない。

 だが、臨時国会で承認を得たにもかかわらず、米議会承認が頓挫し、新政権が協定離脱、再交渉を求める事態となれば、安倍政権ははしごを外された格好となりかねまい。

 いずれにしても、承認を急ぐ必要はないのだ。必要なのは、米国の動向を注視することであり、それ以上に、国民と誠実に向き合うことだ。

 TPPを巡っては、大筋合意からやがて1年になろうというのに、暮らしや社会に及ぼす影響について国民の理解が進んだとは言い難い。

 特に空前の市場開放にさらされる農業の、地方の生産現場に渦巻く不安と不信は一向に解消されていない。7月の参院選で、東北で与党が大敗した要因の一つでもある。

 不安を拭い理解を促すためには、政府が、交渉経過を含め最大限の情報開示と丁寧な説明に努める以外ない。与野党の議員には改めて、TPPが本当に国民の利益にかなうのかどうかを精査・吟味し、議論することが求められる。

 臨時国会を、TPP承認ではなくTPP熟議の場としなければならない。

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