Trump’s Style of Intervention Contradicts American Ideals

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権力者が企業を脅して経営方針を変えさせる-。独裁国家の話ではない。次期米大統領主演の「トランプ劇場」だ。米国を支える自由、民主、平等という理念を軽んずるトランプ氏を憂慮する。

 やはり、やってきたかという感がある。トランプ氏がツイッターで、トヨタ自動車がメキシコで進める工場新設計画について「米国に工場を建てるか、高い関税を払うかだ」と撤回を要求した。同じように脅されたフォード・モーターがメキシコ工場建設を撤回したばかりだ。

 トランプ氏はゼネラル・モーターズ(GM)のメキシコ投資もやり玉に挙げるほか、空調機器大手メーカーを激しく攻撃し、メキシコ移転計画を変更させた。

 北米自由貿易協定(NAFTA)によって、米企業が人件費の安いメキシコに生産拠点を移す動きが相次ぎ、雇用流出が問題になっている。

 だからと言って、政治介入でこれを思いとどまらせても、米国の高い人件費が販売価格に転嫁されて消費者を苦しめたり、生産現場のロボット化が進んで雇用につながらない可能性は否定できない。

 トランプ氏の言動は首尾一貫しておらず、事実誤認も多い。トヨタについてのツイッターも、工場を取り違えて指摘した。よく調べもせずに、思いつきだったとしか思えない。

 しかもトランプ氏からは、他人が自分にひれ伏すのを見て楽しんでいる印象すら受ける。権力をおもちゃにしているのではないか。

 為政者の恣意(しい)によって企業活動が歪(ゆが)められるのが不健全であるのは言うまでもない。空調大手の場合は、税制優遇を取引材料にした。政府が個別企業ごとに取引すれば、そこに癒着が生まれ、市場での公正な競争は損なわれる。

 米新政権の予測不能性を前に、国内企業は経営判断に苦しみ、海外企業も対米投資をためらうかもしれない。

 トランプ流の介入はいっときは大衆受けするだろうが、結局は国民の利益にはならない。経済だけではなく、公正、平等、自由といった米社会のありようにかかわる問題もはらんでいる。

 トランプ氏は大統領選の武器としてツイッターを活用した。当選後は閣僚人事や核戦力増強という重大政策もツイッターで発信したが、一方的な意思表明では説明責任を果たしたとは言えない。大統領の発言は重い。それを自覚すべきだ。

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