Japan-US Agreement

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米軍普天間飛行場の沖縄県内への移設に反対していた翁長雄志知事が急逝し、9月に知事選が行われることになった。安倍政権が支援する前宜野湾市長の佐喜真淳氏と、移設反対の立場を取る衆院議員、玉城デニー氏の一騎打ちになるとみられ、移設の是非が最大の争点となりそうだ。

 ただ、翁長氏が提起したのは移設の是非にとどまるものではない。知事選の状況にかかわらず、考えたいのが日米地位協定についてである。

 「憲法の上に日米地位協定がある」。生前、翁長氏はこうした表現で、協定の問題点を指摘していた。在日米軍の法的地位を定めた協定は、日米安保条約に基づき1960年に発効した。日本の国内法は米軍には原則、適用されない。米軍人が起こした事件などを機に運用改善や補足協定の締結はなされてきたものの、改定されたことはない。

 日本にある米軍専用施設の7割が集中する沖縄県では、米軍が絡む事件や事故が続発している。そのたびに地位協定が「壁」となり、沖縄県などが要請しても米側から十分な情報提供や再発防止策の提示がないのが現状だ。

 日米地位協定の問題点は他国と比べると分かりやすい。ドイツとイタリアに沖縄県が職員を派遣して調査したところ、両国は米軍に駐留を認めつつ米軍に国内法を適用していた。周辺住民の苦情を基地の運用に反映させるため、自治体も参加する委員会を設けるなど、日本の状況とは大きく異なっているという。

 問題意識は本土側の自治体にも共有されつつある。全国知事会は日米地位協定の抜本的見直しを求める提言を初めてまとめ、今月、政府に提出した。米軍機の訓練ルートや訓練を行う時期の速やかな事前情報の提供をはじめ、地位協定を抜本的に見直し、航空法や環境法令などの国内法を原則として米軍に適用させることなどを求めている。

 自治体の危機感の背景にあるのは、日米合意により本土側の訓練が増え、米軍機が本土上空を飛ぶ機会が増えていることにある。今年6月には鹿児島県の奄美空港に米軍の輸送機オスプレイが緊急着陸した。米軍横田基地(東京都)から岩国基地(山口県)を経由し、沖縄県に向かう途中のトラブルだった。オスプレイは沖縄に加えて、横田基地にも10月から数年かけて計10機が配備される予定で、日本全土を日常的に飛行するとみられる。

 米軍専用施設のない岡山県も無関係ではない。陸上自衛隊日本原演習場(津山市、奈義町)では10月、米海兵隊による初の単独訓練が予定されている。

 政府は全国知事会の提言を重く受け止め、改定に動いてもらいたい。ドイツとイタリアでは米軍の事故後に世論が盛り上がり、地位協定が改定された経緯がある。まずは多くの国民が、沖縄だけの問題ではないと認識したい。

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