トランプ米大統領が米テレビ局のインタビューで、日米安全保障条約に基づく防衛義務が片務的であるとして、不満を表明した。米国は日本を守るが、「米国が攻撃されたとき日本はわれわれを助ける必要がない」と指摘した。
この発言をもって、米国が安保条約を破棄する兆しと焦る必要はない。ただし、安保条約の構造的な不安定性を浮き彫りにした点は否めない。
今後、防衛費の増額や中東でのタンカー護衛への協力などの要請があるかもしれない。日本は応分の責任を果たすべきだ。
菅義偉官房長官は会見で「全体としてみれば日米双方の義務のバランスは取れており、片務的との指摘は当たらない」と述べ、条約の見直しはないと強調した。
米国は日本を防衛し、日本は基地を提供することが安保条約の骨格で、「非対称的双務関係」とも呼ばれる。安保条約は、米国にとっても死活的に重要である。
日本の基地提供のおかげで、米軍は北東アジアはもとより、西太平洋から中東まで展開できる。破棄は米国の世界戦略を根底から覆す。日米同盟がなければ、米国は中国との「新冷戦」を有利に進めることもできない。中国の覇権を阻めなくなるだろう。
日米同盟は、インド太平洋の諸国民の自由と繁栄の前提となる国際公共財だ。その維持は、日米の国際的な責任である。
これらを日米両政府はよく分かっている。安保条約の破棄はありえない理由である。
ただし、それでも構造的な不安定性が残っている。トランプ大統領は「米国が攻撃されたとき、日本はその状況をソニーのテレビで見ていられる」と指摘した。
これが現実になれば、米国民は双務的とは考えず、強く反発するに違いない。米国民の心が日本から離れれば、米政府といえども安保条約の履行は難しい。
安倍晋三政権は、集団的自衛権の限定行使を可能にする安保関連法を整えた。日米が守り合う状況をつくる道を開いたが、適用には過度の制限がかかっている。トランプ大統領の指摘するようなケースが起きないともかぎらない。
産経新聞は平成23年、日米が完全に対等な相互防衛体制を確立するよう、安保条約の再改定案を世に問うた。その意義は今も失われていない。
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