米国が移民の受け入れの制限を始めた。新型コロナウイルスの感染の封じ込めに向け、人の移動を減らすための緊急措置であれば理解できる。問題は、新たな移民は米国民から職を奪う邪魔者であるかのような発言をトランプ大統領がしていることだ。
トランプ氏が署名した大統領令によると、発給を停止したのは、米国に永住して働くことを認めるグリーンカードと呼ばれる査証(ビザ)だ。短期滞在用の労働ビザは含まれておらず、日本企業の駐在員が直ちに米国に滞在できなくなるわけではない。
米国務省はコロナ対策の一環として3月に新規ビザの審査の際の面接などを停止した。大統領令はその追認といえなくもない。停止期間は60日間である。
にもかかわらず、米国内で物議をかもしているのは、これが移民の本格的な排除の一歩になるのではないかと懸念する向きが少なくないからだ。
米国外で生まれ、現在は米国に住む人々を人種別にみると、最大勢力はメキシコなどから来たヒスパニック(中南米系)である。トランプ氏は彼らへの人種差別発言をすることで、職を奪い合う関係にある白人貧困層を引き付け、大統領選に勝利した。
トランプ氏は記者会見で「米国人の仕事を最優先にする」との考えを強調した。60日後に措置を解除するかどうかは、そのときの雇用情勢で判断するという。
ヒスパニックの流入阻止にとどまらず、すでに発給済みのグリーンカードの取り消しもあり得るとほのめかしてきたトランプ氏だけに、措置の恒久化もあるのではないか。「白人国家」の色彩が鮮明になれば、人種的な分断を深め、地域コミュニティーの安定を損なうことになろう。
新たな移民がもたらす才能を取り入れることで、米国は経済発展を続けてきた。そうした国柄を変えてしまえば、国力の維持はおぼつかない。トランプ氏は米国の将来を見通して判断すべきだ。
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