国際社会の秩序を壊す横紙破りは認められない。イスラエルと米国の今後の動向を厳しく注視する必要がある。
イスラエルのネタニヤフ首相が、もう1年半続投する。昨春から3度の総選挙を経ても新政権が発足しない事態は、ひとまず収まった。
だが問題は、首相が7月にもパレスチナ自治区のユダヤ人入植地の併合などに動く構えを見せていることだ。
自治区は半世紀前にイスラエルが軍事的に占領した。力で奪った土地を自国に編入するのは明らかな国際法違反である。
自治区を基本にパレスチナ国家を樹立し、イスラエルと平和共存する。「2国家解決」が70年を超す紛争を終わらせる唯一の道だ。これが国際社会の合意であり、国連安保理決議は占領地からの撤退を求めてきた。
併合を強行すれば、中東の和平はさらに遠のき、地域情勢の不安定化も心配される。敵対するイランとの緊張が高まる上、テロを誘発する恐れもある。
ネタニヤフ氏をいさめるどころか、たきつけてさえいるのがトランプ米大統領だ。昨年は、シリアからイスラエルが軍事的に奪ったまま占領しているゴラン高原での主権を認めた。今年示した「和平案」では、入植地の併合を容認した。
肩入れの背景には、秋の大統領選への思惑がある。トランプ氏の基盤であるキリスト教福音派が、イスラエルの領土拡張を支持しているからだ。主権国家の領土保全の原則をないがしろにする米大統領の利己的な外交は、最大限の非難に値する。
イスラエルの新政権は妥協の産物だ。ネタニヤフ氏は汚職疑惑で起訴されており、野党党首のガンツ元参謀総長は連立を拒んできた。だが、新型コロナの感染拡大を受けて緊急内閣をつくることで合意した。このため1年半後にはガンツ氏が首相に交代することになっている。
ガンツ氏は入植地併合には慎重だという。連立合意には、エジプト、ヨルダンとの和平条約への配慮が盛り込まれた。国防相になる予定のガンツ氏には、地域の安定を重視し、歯止め役となることを期待したい。
日本は一貫して2国家解決を後押しし、パレスチナの人道支援や経済開発を進めてきた。柱の一つが15年ほど前から進める「平和と繁栄の回廊」構想だ。自治区に農産品の加工団地をつくりヨルダン経由で輸出する。
入植地併合によってイスラエルとヨルダンの関係が悪化すれば、長年の努力が水泡に帰する可能性もある。欧州などと連携し、イスラエルが国際秩序に反する暴挙に出ないよう、くぎを刺し続けなくてはならない。
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