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「それはアメリカ史の中で最も嫌悪に満ちたエピソードの一つだった。父と叔父はそのことを話すたびに怒りで真っ赤になった」。元CBSキャスターのダン・ラザー氏が語るのは、ボーナスアーミー事件である▲恐(きょう)慌(こう)下の1932年、第一次大戦の元将兵や家族が退役軍人ボーナスを求め全米からワシントンに詰めかけた。連邦施設や河原を占拠した彼らに襲いかかり、蹴散(けち)らしたのは何と現役の米陸軍だった▲指揮したマッカーサー、部隊長のパットンが、後の第二次大戦で英雄となったのは皮肉である。しかし連邦軍の弾圧で女性や子どもを含む死傷者多数が出たこの事件は米国史の汚点となり、時の大統領フーバーは次の選挙で大敗した▲さて今日、一部が暴徒化した人種差別への抗議の鎮圧に連邦軍を出動させる構えを見せ、制服組トップをデモ対応の責任者にすると表明したトランプ米大統領だ。すぐに国防長官が「軍出動は最終手段」と反対表明するはめになった▲驚いたのは、軍内の信望の厚い前国防長官マティス氏による「大統領は我々を分断している」との公然たる非難だ。社会を敵味方に分裂させて支持層を固めるトランプ政治に利用されれば、軍の基盤が崩壊するのを危惧(きぐ)したのだろう▲おりしも市民が軍に殺傷された中国の天安門事件を香港市民が追悼しているさなかの米国の政軍関係のきしみだ。ちなみに88年前のマッカーサーに弾圧の自制を求めた副官が、第二次大戦の英雄から大統領になったアイゼンハワーという。
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