トランプ米大統領とSNS(交流サイト)各社の対立が波紋を広げている。表現の自由という民主主義の根幹に関わる問題だ。揺れる米国の姿は人ごとではない。
発端は5月下旬、ツイッターがトランプ氏の投稿に「物言い」をつけたことだ。11月の米大統領選で郵便投票が不正の温床になる。そう断じた書き込みが誤解を生みかねないとして注記を加えた。
これに激高したのがトランプ氏だ。「言論の自由を奪われた」とSNS各社への規制を強める大統領令に打って出た。しかしツイッターは引かず、フェイスブックなど他のSNS企業も問題投稿の制限で追随する事態に発展した。
大統領令を巡っては米国内でも意見が割れている。SNS企業への報復であり、逆に自由な言論を抑圧するとIT(情報技術)の権利団体が提訴した。一方、利用者が流す情報にSNS各社は中立であるべきだとの声も根強い。
SNSは現代社会を支える情報インフラだ。各社への規制は利用者も巻き込んで幅広く議論すべきだ。大統領だからといって独断でことを進めるのは乱暴すぎる。
そもそもトランプ氏は節度を守らなければならない。SNSでの奔放な発言が一定の支持を得てきたが、米紙ワシントン・ポストによると、誤情報や誤解を招く発信は就任以来2万件近くに及ぶ。
米大統領の発言はSNS上でも公文書扱いされる。黒人暴行死への抗議の激化も引き金は自身の投稿だ。「つぶやき」の中身はよくよく吟味すべきだ。
SNS各社もやるべきことは多い。米国でネット企業は利用者の投稿に責任を負わなくていいとする免責が認められている。法律の成立は1996年だ。各社の役割は四半世紀で大きく変わった。
それを痛感させられたのが2016年の米大統領選だ。フェイスブックから大量の個人情報が流れ、偽ニュースなどを使ったロシアの選挙介入を許したとされる。
もはやSNSの影響力は既存メディアを上回る。16年の轍(てつ)を踏まぬためにも、悪質投稿の監視要員を増やすなど一定の自主的な対応は時代の要請だろう。
日本でもネット中傷などの問題が深刻だ。対策に代価を惜しんではならない。過剰な検閲を招かぬよう利用者も省みてほしい。民間主体で健全なネット社会をめざす。我々は言論統制ありきの中ロなどとは違うはずだ。
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