米国ビザ制限 思惑通りに雇用は増えまい
2020/07/17 05:00
トランプ米政権が国民の雇用確保を目的とし、一部の就労ビザ(査証)発給を停止した。
「自国第一主義」に基づく身勝手な措置は、国益を損なうだけである。早期に再考するよう求めたい。
ビザ発給の停止は、6月24日から始めた。対象となったのは、ITエンジニアら高度技能職の「H―1B」、企業駐在員らの「L」、研究者や研修生向けの「J」などだ。年末まで続け、必要に応じて延長するという。
米国では、新型コロナウイルスの感染拡大で失業者数が増加し、国民の不満が高まっている。
トランプ大統領は4月、永住権(グリーンカード)取得を目指す外国人の受け入れを止めた。今回のビザ停止と合わせ約52万人の雇用が生まれると見込んでいる。
トランプ氏は11月の大統領選に向け、支持者にアピールしたいのだろうが、その思惑通りに雇用が増えるとは限らない。
H―1Bビザの対象はソフトウェア技術者が多く、高い能力を必要とする。失業者がすぐに取って代わるのは難しい。多国籍企業は世界的な配置を考慮して人材を管理しており、駐在員を現地の労働者に置き換える可能性は低い。
こうした実情を把握せず、ビザの発給を止めれば雇用が回復すると考えるのは理解に苦しむ
。
むしろ、米企業の競争力向上や技術革新を阻む懸念が大きい。
「GAFA」など米IT企業の躍進には、優秀な外国人技術者が貢献してきた。アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は、移民が繁栄に欠かせないとし、「深く失望した」と表明した。
IT業界だけではない。全米製造業者協会なども、成長にマイナスで雇用創出の機会を奪うと批判している。トランプ氏は、企業の声に真摯(しんし)に耳を傾けるべきだ。
日本企業にも打撃が及ぶ。日本貿易振興機構(ジェトロ)が961社に聞いた調査では、今後の赴任などに支障が出る企業数は308社、影響を受ける駐在員は1400人以上という。
若手技術者の派遣を延期したケースや、生産ライン開設のための要員が赴任できず、事業が滞っている事例が報告されている。
現地従業員だけでは日本の取引先との連絡がうまくいかず、品質管理が難しくなったという自動車関連の企業がある。
多くの日本企業は米経済の発展に寄与し、雇用も生み出してきた。政府はそのことを訴え、強く見直しを働きかけねばならない。
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