‘At the Present Moment in World History’

<--

「世界史の現時点では、ほぼすべての国が二つの生き方のいずれかを選ばねばならない」。1947年のトルーマン米大統領の特別教書演説は、米ソ冷戦開始を告げる「トルーマン・ドクトリン」となった▲抑圧からの自由を掲げる自陣営と、自由を抑圧する全体主義とに世界を二分し、後者の封じ込めを訴えたこの演説だ。イデオロギーで敵と味方を色分けする冷戦思考は、ソ連崩壊まで世界を支配した▲「自由世界は新たな圧政に勝利しなければならない」。これは冷戦時代の誰かの言葉ではない。つい先日、米国のポンペオ国務長官が中国の脅威を強調し、「中国共産党から我々の自由を守るのは現代の使命」だと断言した演説である▲冷戦終結この方、あまり耳にしなくなった「全体主義」や「共産主義」へのイデオロギー批判を演説にふんだんにちりばめたポンペオ氏である。米中の領事館閉鎖の応酬もあり、いよいよ新冷戦開始かと世界が身構えたのも無理ない▲驚くのは、ポンペオ氏が中国に対する自由世界の新たな同盟構築を呼びかけ、国連など国際的枠組みの活用も訴えたことだ。同盟国や国際機関による多国間協調に背を向けてきたトランプ政権の突然の冷戦初期への先祖返りとなった▲大統領選を前に、国内の失政も隠せる“ポンペオ・ドクトリン”だが、仮に民主党政権になっても米国の対中強硬姿勢は緩むまい。経済・軍事の優位の揺らぐ米国が踏み切ったイデオロギーの冷戦復活、くれぐれも不測の事態を招かぬよう願う。

About this publication