トランプ米政権が動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する中国企業の排除に動き出した。米中対立がネットの世界にも及びだした象徴といえ、憂慮すべき問題である。
ティックトックの運営会社、北京字節跳動科技(バイトダンス)に対し、9月15日までに米国事業を米企業に売却するよう求めた。米マイクロソフトが買収に名乗りを上げたが、交渉が不成立なら米国内での利用を禁止する。
バイトダンスに事実上の米国撤退を迫った形だ。背景には「安全保障上の懸念」(ポンペオ国務長官)がある。バイトダンスは一貫してスパイ活動への関与を否定しているが、米国が強硬策をとるのもやむを得ない面はある。
警戒するのは中国共産党・政府によるネット企業への統制の動きだ。中国は2017年に国家情報法を施行し、民間企業や個人にも情報活動への協力を義務づけた。
中国企業である限り、当局の命令には従わざるを得ない。米英が排除に動く華為技術(ファーウェイ)と同様に、ティックトックには膨大な利用者データが筒抜けになる恐れがどこまでも残る。
懸念の解消には中国自らの改革が必要だろう。国内では情報統制を理由に、グーグルやフェイスブックなど海外勢を締め出してきた経緯がある。自国を開かず、日米欧と異質な法体系のままでは、中国発のIT(情報技術)サービスが世界標準になるのは難しい。
ティックトックを巡っては、日本でも自民党が利用を制限する規制案づくりに動く。欠かせないのは利用者への丁寧な説明だ。
日本でも若者を中心に1千万人以上が使う。中国製というだけで即座に排除すれば、大きな混乱を生みかねない。アプリにどんな危険性があるのか、詳しく調べた上で周知を図らなければならない。
「ネットの分断」で不利益を被るのは利用者だ。日米欧諸国は中国政府に対し、党が企業に介入する仕組みやネット統制をやめるよう粘り強く求めてほしい。
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