Filling the Void in Global Governance for a Stable World Order

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–国際統治の空白埋め秩序の安定を–

世界がリーダーシップを欠く「Gゼロ」が叫ばれて約10年。新型コロナ禍は、戦後75年に及ぶ国際統治の仕組みがいよいよ行き詰まってきたことを露呈させた。

世界的な危機を前に各国の足並みは乱れ、国際統治のほころびに拍車がかかっている。世界保健機関(WHO)の主導権をめぐって米中が対立し、米国が脱退を表明したのは最たる例だ。

世界に背を向ける米国

このまま手をこまぬいて秩序を崩壊させていいのか。その先に待つのは各国が目先ばかりの狭い国益を追ってぶつかる不安定な世界だ。当然ビジネスや投資のリスクは高まり経済にも逆風になる。

各国は連携の糸口をみつけ国際統治の空白を少しでも埋めるべきだ。ルールを重んじ負担を分かち合って長い目でみた利益を実現する。環境、保健などグローバルな課題が重みを増すなか、それがめざす道であるのは明らかだ。

戦後の国際統治は2階建ての構造が担ってきた。1階は国際連合や世界銀行、国際通貨基金(IMF)など、法律に基づいて設置された国際機関が背骨をなす。2度の世界大戦の反省から、国際協調を促す目的で構想された。

2階は有力国が国際問題に対処する枠組みで、1970年代以降の主要7カ国(G7)や、2008年の金融危機後に存在感を増した20カ国・地域(G20)に代表される。どの体制も率いたのは米国で、自国の利益を求めつつ、各国に目配りして汗もかくことで世界をまとめてきた。

トランプ米大統領はその役割に背を向けた。17年の就任以降、脱退を表明した国際的な枠組みは地球温暖化を防ぐパリ協定など多岐にわたる。紛争処理を担う委員の任命を拒み、世界貿易機関(WTO)を機能不全に追い込んだのも米国だ。G20も自国第一を掲げる米国を前に立ち往生している。

その意味でトランプ政権の責任は重いが、底流には中国の台頭と米国の相対的な力の低下という構造変化がある。製造業の衰退や格差の拡大で米国民は疲れ、世界の問題と距離を置きたがっている。11月の大統領選がどう転んでも状況は大きく変わらないだろう。

だとすれば米国の限られた関与を前提に、どう国際統治の仕組みを立て直すかを考えるべきだ。

中国が率いる秩序を思い描くのは現実的ではない。コロナ禍の対応では「マスク外交」などで攻勢に出たが、直近の米ギャラップの調査によると、中国の指導力を評価する人々の割合は歴史的な低さにある米国すら下回る。香港への言論弾圧も、民主主義の国々に中国の異質さを印象づけた。

自由や民主主義に基づく国際秩序を守るには、同じ価値を共有する国々がかじをとるしかない。日本、英国、ドイツなどの役割は大きい。米国が空けた空白を埋めるため、G7の残りの国が構想を練り、利害を調整し、国際的な合意形成を地ならしすべきだ。

その成果を実行に移すにはG20の再活性化もカギになる。行き詰まっているとはいえ、世界経済の9割を占める国・地域の首脳が一堂に会する枠組みは貴重だ。トランプ氏に自国第一の転換を求めるのは無理でも、保護主義的な措置に歯止めをかけ、特定の分野で国際協調を促す場になりうる。

有志国の連携に期待

中国に対しても自由、民主主義やルールの尊重を粘り強く訴えていくべきだ。対立する米中を橋渡しする建設的な提案を示す動きがあってもいい。各国に諦めムードが漂っているのは残念だ。

特定の課題に取り組む有志国の連合も、ぐらつく国際統治の添え木になれる。シンガポールとニュージーランドはコロナ危機下でも必需品を含めた貿易を維持する共同声明に署名し、その後、10カ国が参加した。独仏は昨年、ルールに基づく多国間主義を支持する国々の連合を立ち上げた。

目先、問題になるのは米国が資金拠出を拒んだWHOの予算やWTOでの紛争処理だ。これを有志国で肩代わりするなど可能な部分から国際統治の瓦解をくい止め、改革につなげるべきだ。

米国が圧倒的な力で世界を率いた国際秩序は終わりつつあり、より多極的な統治の仕組みが必要になる。そこへどう安定的に移行するか。そしてどんな理念のもとで新たな体制を築くか。各国の覚悟と構想力が問われる局面だ。

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