US Presidential Election: Competition for Return to Harmony

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米大統領選 融和取り戻す政策競え

11月3日投票の米国大統領選まで70日を切った。共和党現職のトランプ氏に挑む民主党の正副大統領候補が正式に決まり、対決は熱を帯びてきた。

 米国は世界有数の経済・軍事大国であり、日本とも経済や文化、安全保障など幅広い分野で密接な関係を結んでいる。

 ▽「使える核」開発

 世界に衝撃を与えたトランプ氏当選からこの4年間、米国は「自国第一主義」を掲げ、国際協調に背を向けてきた。その象徴が温暖化防止に向けた「パリ協定」からの離脱だろう。次の4年間のかじ取りを誰に託すのか、米国民の選択は私たちにも深く関わってくる。

 被爆地広島から見れば、トランプ政権の核政策は到底許せない。核攻撃の抑止と反撃に限っていた核兵器の役割を広げて、「使える核」として小型核の開発を推進。実戦使用を想定した作戦の新指針もまとめた。

 ロシアと結んでいた中距離核戦力(INF)廃棄条約から離脱し、史上初めて特定分野の核兵器全廃を定めた画期的な条約を失効に追い込んだ。今やロシアとの間の核軍縮関連条約は新戦略兵器削減条約(新START)を残すだけ。それも来年2月には期限が切れる。

 多国間の軍縮枠組みづくりに意欲は見せるが、中国も含めて核軍拡や軍備増強を競い合っているのが実情だと言えよう。

 不安定な中東を巡る政策も疑問が消えない。イランの核開発に一定の歯止めをかけた「核合意」から一方的に離脱、核保有国であるイスラエルには過度の肩入れをしている。地域の危うさを増していることに、なぜ気が付かないのだろうか。

 ▽加速か歯止めか

 米国内では、人種や性別による社会の分断が一層深まった。この流れをさらに加速させるのか、それとも歯止めをかけるのか。選択肢は、はっきりしている。

 民主党の大統領候補に選ばれたバイデン前副大統領は、党内結束を目指す。そのため最低賃金引き上げや学生ローン返済の負担緩和といった左派の主張の一部を政策に取り入れた。党内の中道派と左派の溝が埋まらず敗北した4年前の教訓を生かそうとしているのだろう。

 副大統領候補には、アジア系で黒人の女性ハリス上院議員を指名した。多様性のある人を選ぶことで、差別をあおっているとの批判を受けるトランプ氏との対立軸が鮮明になった。

 さらに、人種対立や社会の分断が進んだ今の米国は「暗黒の時」だと現政権を批判。自らは国民の融和に努める考えを示した。実際、黒人暴行死事件をはじめ警官らによる黒人への過剰な暴力が後を絶たない。差別解消を重視するのは当然だろう。

 バイデン氏は、国際的には米国の指導力回復を目指し、パリ協定復帰や同盟関係の修復を訴えている。香港の自由抑圧や軍備増強の目立つ中国への対決姿勢は、ある程度引き継ぐ考えだ。知的財産の窃盗や南シナ海での軍事活動に強い姿勢で立ち向かう、としている。

 ▽失言癖気掛かり

 今はバイデン氏が支持率でリードしている。しかし気掛かりな点も多い。何より年齢だ。当選すれば歴代最高齢の78歳での就任となる。失言癖もあり、先行き不安は拭えない。幅広い支持を得ているが、熱狂的な人は少なく、消極的支持による寄り合い所帯とも皮肉られる。

 対するトランプ氏は、好調な株価や強硬な移民政策を実績として強調。中国に対しては、ウイルスを拡散させた責任を取らせ、100万人分の製造業の雇用を取り戻すと訴えている。

 バイデン氏については「過激な左派に操られている」と非難。強固な支持基盤である保守層固めに走っている。

 9月末からは、候補者同士の討論会が3回予定されている。4年前の前回は、個人攻撃の応酬で「史上最低の選挙戦」と米国の主要紙に評された。そうならないよう、政策で競い合わなければならない。分断が進んだ社会や、ほころびの目立つ国際協調をどうするのか。具体策を基にした論戦が求められる。

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