大統領選の不正疑惑で混乱が続く旧ソ連のベラルーシを巡り、ロシアと米国がつばぜり合いを演じている。相互不信を強める米ロはともに「内政干渉」をけん制。長期独裁体制を続けるルカシェンコ大統領の早晩の退陣も見据え、水面下で攻防を強めている。
「我々の立場は欧州や米国などよりも、はるかに控えめで中立的だ」。ロシアのプーチン大統領は8月末、国営テレビのインタビューでベラルーシの騒乱に初めて触れ、ルカシェンコ政権を一方的に非難する米欧の姿勢を問題視した。
8月9日に実施されたベラルーシ大統領選は、ルカシェンコ氏が8割の得票で6選を決めたと発表されたが、反体制派や市民らは「不正選挙」と反発。大規模な抗議集会やデモを展開し、同氏の退陣や再選挙を求める動きが広がっている。
ロシアは同氏の当選を「正当」と主張するが、米欧は市民らの抗議活動を全面的に擁護し、資金面を含めて支援する。米国のビーガン国務副長官は選挙戦でルカシェンコ氏に対抗した反体制派の統一候補チハノフスカヤ氏と会談した。
ポンペオ国務長官は選挙が「自由でも公平でもなかった」と断じるとともに「友人としてベラルーシの独立と主権、民主的で繁栄した未来を望む人々の願いを支援する」と表明した。
プーチン氏はルカシェンコ氏の要請で、情勢悪化に備えた治安部隊の派遣をロシアが準備したと明かしている。あくまでも略奪や放火、行政機関の占拠といった非常時に限って投入するというが、米欧の疑心は募る。ビーガン副長官は8月下旬の訪ロ時にラブロフ外相と会談した際、ロシアがベラルーシに軍事介入すれば、米国は対ロ制裁を科すと警告したという。ロシアは2014年のウクライナ危機で軍事介入した経緯があり、米欧の対ロ不信はなおさらだ。
ベラルーシでは、根深い米ロ対立を象徴するような出来事が7月末に起きた。ロシアの民間軍事会社「ワグネル」に所属する30人以上のロシア人戦闘員が首都ミンスクなどで拘束された事件だ。
ロシアは第三国に向かう途中だったと説明したが、ベラルーシ当局は「騒乱・テロ行為を企てていた」と発表。ルカシェンコ氏も「大統領選を前に、国内情勢を不安定化させる試みだ」とロシアを非難した。戦闘員の投入で反政権デモをあおり、自身の6選阻止をもくろんだとみたわけだ。
だがロシア大衆紙コムソモリスカヤ・プラウダはロシア当局の情報として、ロシアとベラルーシを仲たがいさせるために、ウクライナ特殊機関が仕掛けたものだと報じた。中東や中南米での石油施設の保安業務という仕事をエサにロシア人戦闘員を呼び寄せたという。
ウクライナ政府は「偽情報」と否定したが、同国メディアなどもウクライナの保安庁と国防省情報総局の関与説を指摘。米国とウクライナの共謀説、ウクライナ東部紛争で親ロシア派に加担した戦闘員の逮捕を狙ったという説も報じられた。
ウクライナは実際、戦闘員の引き渡しを求めたものの、ロシアに送還された。事件は決着したかにみえたが、プーチン氏は先の国営テレビの会見で「米国とウクライナの特殊機関による共同作戦だ」と蒸し返したのだ。
真相はともかく、ロシアが米国の干渉をいかに警戒しているかがうかがえる。同じ旧ソ連のウクライナでは04年にオレンジ革命と呼ばれる民主化運動が起き、14年には市民の抗議行動で親ロ派政権が倒された。いずれも米国が水面下で主導したとロシアはみており、ベラルーシでは断固阻止する構えのようだ。
ベラルーシはロシアが主導するユーラシア経済同盟に参加し、経済面での単一市場などを目指す「連合国家創設条約」も結んでいる。西側でポーランド、リトアニア、ラトビアと国境を接するベラルーシは北大西洋条約機構(NATO)の浸透を防ぐロシアの安全保障戦略の上でも重要だ。
ただし、ルカシェンコ氏の去就を巡ってはロシア専門家の間でも長期の政権維持に懐疑的な見方が出ている。ロシアは米欧の影響力を排除しつつ、将来の政権移行も見据えたかじ取りを慎重に進めていくとみられる。
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