<社説>ドローン取材規制 基地の実態伝えられない
2020年9月9日 06:01
戦争中の広島県呉市を描いたアニメ映画「この世界の片隅に」で、絵が好きな主人公すずが段々畑から見える呉湾をスケッチしていると、憲兵にスパイ行為だと厳しく言い寄られる場面がある。呉は軍港である。海岸線の写生や写真撮影は禁止されていた。
アニメが舞台にした時代の日本を彷彿(ほうふつ)とさせる法律が改正ドローン規制法だ。テロ防止などを理由に、6日から米軍基地やその周辺で小型無人機(ドローン)による飛行が原則禁止された。同時にドローンを飛ばす場合、30日前までに米軍の同意が必要になる。
これでは基地内で発生した出来事に対応できず報道の自由が侵害される。国民の知る権利に応える報道は、高い公共性を有し、憲法によって保障されている。取材規制によって、国民に基地の実態が伝えられなくなる。知る権利を侵害しないよう法律の改正を強く求める。
7年8カ月にわたって国政を担った安倍政権は、しばしば沖縄で基地問題取材の自由を制約した。
2016年8月、東村と国頭村に広がる米軍北部訓練場のヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)建設に抗議する市民を取材中の本紙記者ら2人が機動隊によって拘束され、取材を妨害された。国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」(RSF)は、「沖縄の報道の自由が脅かされている」とする声明を発表したが、安倍政権は問題はなかったとする政府答弁書を閣議決定した。
辺野古新基地建設を巡り17年1月、沖縄防衛局は報道各社に、刑事特別法の条文を示し、辺野古沖に設定した広大な臨時制限区域に立ち入らないよう求める文書を送付した。マスコミの取材活動を制限する狙いは明白だ。
19年6月、言論と表現の自由に関する国連のデービッド・ケイ特別報告者は、国連人権理事会に報告書を提出。辺野古新基地建設の抗議活動などに日本の当局が圧力を加えたり、過度に規制したりし続けていると批判した。菅義偉官房長官は報告書が言及した政府によるジャーナリストへの圧力は「全くないと思っている」と反論している。
そして昨年成立した改正ドローン規制法に基づき、飛行禁止区域の対象に米軍の「防衛関係施設」が初めて追加された。キャンプ・シュワブ、嘉手納基地、普天間飛行場など県内5施設を含む15カ所を対象とした。防衛省は今後、段階的に規制対象を拡大する。
特に政府が建設を強行しているキャンプ・シュワブ沖の辺野古新基地建設現場の上空取材が困難になる。
安倍晋三首相は言論統制につながる法律を残して去る。辞任表明に伴う自民党総裁選が8日告示された。
菅官房長官、岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長の3候補は、言論の自由をないがしろにした安倍政治を是認するのかどうか、立場を明確にしてもらいたい。
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