米国大統領の座を争う政治家の論争かと耳を疑った。共和党のトランプ大統領と民主党のバイデン前副大統領が初めて直接対決したテレビ討論会である。
トランプ氏が発言を遮って「過激左派、いいか聞け」と食ってかかると、バイデン氏が「黙れ、おい」とはねつける。
「あなたがうそつきなのはみんな知っている」とバイデン氏が非難すると、トランプ氏が「そっちこそうそつきだ」と言い返す。
開始間もなく無秩序な状態に陥り、個人攻撃の応酬に司会者が手を焼く場面が続いた。
際立ったのはトランプ氏のルール無視の姿勢だ。話を聞かず、虚偽と中傷を繰り返した。大統領としての威厳はまったく感じられない。前代未聞の光景だ。
討論会は候補者が政策について説明を尽くし、有権者が人格や政策を含めてどちらが大統領にふさわしいかを吟味するためにある。
過去には勝敗を決定付ける名勝負の舞台ともなってきた。米国ならではの民主主義のかたちだ。
新型コロナウイルス対策や経済問題、医療保険制度改革など論じるべき課題は山積している。論戦を聞いて意中の人を決めようとした有権者は失望したに違いない。
11月の大統領選は大混乱に陥るとの観測がある。コロナ禍で郵便投票が大規模に行われ、開票作業が手間取るおそれがあるという。
勝敗が判明しないうちに一方が勝利宣言して訴訟合戦に発展し、双方の支持者が市中でぶつかり合う--。そんな悪夢が現実にならないとは限らない。
討論会でトランプ氏は分断をあおる態度を隠さなかった。過激な白人至上主義を糾弾せず、黒人差別抗議デモの暴徒化を非難した。空席となった連邦最高裁判事の迅速な指名も訴訟に備えた体制づくりという見方がある。
ほくそ笑んでいるのはロシアや中国だろう。2016年の大統領選でサイバー攻撃を仕掛けたロシアの狙いは、米国の民主主義を弱体化させ、既存の国際秩序を動揺させることだったとされる。
米国政治の劣化があらわになったのが、今回の討論会ではないか。このまま米国の権威が失墜すれば、日本を含む国際社会への影響も避けられまい。
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