Political Vacuum in the US: It Is Time for a Smooth Transition of Power

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米国の政治空白 円滑に政権移行を始めよ

米国に政治空白が生じつつある。トランプ大統領が大統領選の敗北を認めず、政権移行が滞っているからだ。この状況が長引けば、米国だけの問題にとどまらず、世界の地域情勢にも悪影響を及ぼしかねない。

 大統領選は選挙人獲得数がほぼ確定し、民主党のバイデン前副大統領と大差がついた。トランプ氏は「選挙には不正があった」と主張し、法廷闘争などで抵抗している。ただ不正の根拠を示せないまま敗訴が続き、撤退する弁護団も相次ぐ。もはやバイデン氏の当選が覆ることはないとの見方が大勢だ。

 菅義偉首相ら各国首脳がこぞってバイデン氏に祝意を寄せ、内外で次期政権に向けて始動している。トランプ氏はこれらの現実を直視し、バイデン氏への引き継ぎに入るべきである。

 選挙は平和裏に権力を交代させる民主主義の土台だ。トランプ氏の一連の言動はその基本をないがしろにし、民主主義の盟主、米国の大統領にあるまじき行為ではないか。

 従来なら大統領選後のこの時期は、政府当局者が新政権側と機密情報を共有し、政策に隙が生じないよう努めてきた。

 ところがトランプ氏が敗北宣言をせず、政権移行への協力を拒むため、バイデン氏側は当局者に接触できない状態が続く。喫緊の課題である新型コロナウイルス対策も必要な情報を得られずに政策が滞れば、人々の生命や健康を脅かすだろう。

 加えて問題なのは、トランプ氏が選挙後、政権内の懸念や批判をものともせず、世界の安保情勢を左右しかねない決定を繰り返していることだ。

 まず目に余るのが人事権の乱用である。人種差別デモの鎮圧に軍を投入しようとしたトランプ氏に異を唱え、確執があったとされるエスパー国防長官に続き、トランプ氏が訴える「大統領選の不正」を否定した情報部門の高官も解任した。

 エスパー氏の電撃解任後には米国防総省がアフガニスタンやイラクに駐留する米軍の削減を発表した。トランプ氏は任期中に公約の海外駐留米軍削減を強行するつもりだろうが、拙速な決定と言わざるを得ない。

 アフガン政府と反政府武装勢力タリバンとの和平交渉は難航し、イラクの治安も極めて不安定だ。現段階での米軍削減は米議会のみならず関係国も懸念を募らせている。

 トランプ氏は退任を意識してレガシー(政治的遺産)作りを急いでいるのだろう。しかし、十分な説明もなく、自身の利益を優先させた独善的な行為にしか見えない。今、求められているのは大局を見据えて円滑に政権移行へ踏み出すことである。

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