筆者は8月27日付本欄で米民主党によるカマラ・ハリス上院議員の副大統領候補指名にバラク・オバマ前大統領の思惑があると指摘した。彼は、トランプ第2期政権となればオバマゲートの捜査が本格化することを強く恐れていた。
≪「オバマゲート」捜査恐れ≫
2016年夏、ヒラリー・クリントン陣営はクリストファー・スチール(元英国MI6)に、文書を捏造(ねつぞう)させた(スチール文書)。第1回報告書(同年6月20日)の冒頭(一部)が以下である。
《ロシア政権は、過去少なくとも5年以上にわたって、トランプを支援している。その狙いは西洋諸国同盟の離反(注…NATO諸国の結束弱体化の意)にあり、プーチンが承認している》
《ロシア諜報関係者によれば、FSB(注…ロシア連邦保安庁)は、彼のモスクワでのビジネスを通じて彼を脅迫できる立場を確保しているようだ。他の複数の情報源によれば、彼のモスクワでの行動の中には性的変態行為も含まれる。その行為(注…女との出会いの意)はFSBが手配し、モニターされていた》
この内容がでたらめであることは明らかになっているが、民主党勢力はこの報告書だけをベースにトランプ周辺幹部の盗聴許可を外国情報活動監視裁判所から得た(16年10月)。その「成果」が、トランプ大統領の「刑事」責任を立件させるモラー特別検察官の任命だった(17年)。オバマは退陣直前に、FBIを中心とする政府諜報組織を使った政敵追い落としスキームを完成させていた。特別検察官の捜査チームは反トランプ思想の捜査員で構成されたが、何の疑惑も出せず、19年5月29日に解散した。これがオバマゲートの概要である。
トランプ第2期政権でその追及が本格化することは確実だった。本年9月、捜査チームの主要メンバーが使用していた携帯電話記録が「誤って」削除されていたことも露見していた。
≪BLMを育てたオバマ氏≫
日本でも知られるBLM(Black Lives Matter)は、共産主義者であることを公言する女性らによって設立された。この組織が中国共産党に近いことは同組織の献金募集サイトに華人進歩会(CPA=Chinese Progressive Association、本部サンフランシスコ)との協力関係を謳(うた)っていることから分かる。
BLMは12年2月に起きたマーティン射殺事件をきっかけに設立された。黒人少年トレイボン・マーティン(当時17歳)が、ヒスパニック系白人ジョージ・ジマーマンに「口論」の末射殺されたとされる事件である。ジマーマンは、陪審裁判により正当防衛であったと認定され無罪判決を得た(13年7月)。しかしこの事件で「制度的人種差別」が根深く、黒人は通りを歩いているだけで射殺される、というイメージが広がった。
事件の真相は違った。夜間、雨の中、近くのコンビニエンスストアに車で出かけたジマーマンは怪しい動きの人影を見た。地域は犯罪が横行し警察の指導で自警団が組織されていた。自警団員だったジマーマンは、警察に電話をした後で不審者の動きを追ったが見失った。尾行をやめたが、男が突然現れ、もみ合いになった。
ジマーマンは小柄だったため相当に「やられた」。事件後の写真から、顔面から血を流し、後頭部にはコンクリートに何度も打ち付けられた傷があった。ジマーマンは携帯していた拳銃から1発の弾丸を放ち、トレイボンは死んだ。警察は厳しく取り調べたが正当防衛を否定する情報はなく逮捕しなかった。しかしメディアや民主党による人種差別殺人であるとする大合唱が始まった。検察は第2級殺人で起訴した。
≪勢力拡大に手段問わず≫
検察はトレイボンが「口論」直前まで携帯電話で話していた女性を探し出し、トレイボンが突然に襲われたようだったとする告白書を書かせた。告白書はトレイボンの母親が書き、女性はサインしただけだったことは後に判明した。
検察は告白書を基に彼女を証人台に立たせた。しかし替え玉だった。証人台で「私は何も知らない」と繰り返した。本物の女性は偽証罪を恐れて証言を拒否していた。証人が替え玉だったことは、ジョエル・ギルバート(調査ジャーナリスト)が、トレイボンのSNSの記録を追って、事件当夜に彼と話していた本人を探し当て露見した(19年9月)。替え玉工作をリードしたのは少年の家族についた民主党系弁護士であった。
オバマ氏は、BLMの幹部を複数回ホワイトハウスに招き、米国には「制度的人種差別」が存在するとしてその撤廃策を協議した。予算もふんだんに用意した。それがBLMの急速な組織拡大の原資となった。
勢力拡大のためには手段を問わない米政治の裏側も知っておきたい。大統領選をめぐり、不正の温床となる郵便投票に対するトランプ氏側からの疑義も故(ゆえ)なきことではない。=一部敬称略(わたなべ そうき)
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