Anticipating a Swift US Return to Nuclear Accord

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米政権と核合意 速やかな復帰望みたい

米バイデン政権が直面する課題の一つにイランの核合意がある。イラン側は米国の復帰を願うが、六月の大統領選で保守強硬派が勝てば、状況はより厳しくなる。米政権の速やかな決断を望みたい。

 昨秋の米大統領選の結果に、多くの人が胸をなで下ろした。イランの穏健派、ロウハニ大統領もそうした一人だったに違いない。

 ロウハニ政権は二〇一五年、オバマ政権当時の米国を含む主要六カ国と核合意を結んだ。イランの核開発制限と引き換えに、国際的な制裁を段階的に解除するという内容だ。イランと米国の良識派が手を差し伸べ合い、成立した。

 だが一八年五月、トランプ米政権が一方的に合意を離脱し、新たに対イラン制裁を科した。イランは対抗措置として一九年五月から合意の履行停止を進めてきたが、破棄には踏み込んでいない。

 ただ、危うい局面はあった。米国は二〇年一月、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害。十一月にはイランの核科学者ファクリザデ氏が暗殺された。後者ではイスラエルの関与が疑われた。

 保守強硬派が優勢なイラン国会は翌月、報復措置としてウラン濃縮度を20%に上げる法律を成立させ、今月四日、生産に着手した。

 核合意での濃縮度の上限は3・67%で、20%を超すと核爆弾製造に必要な90%への濃縮は容易だとされる。今月十三日には、核合意で時限的に禁じられた金属ウラン製造の研究開発にも着手した。

 バイデン大統領は核合意復帰を公約したが、こうしたイラン側の動きに周辺では懐疑論が浮上している。とはいえ、イランの最高指導者ハメネイ師も米国を非難しつつも、対米交渉は禁じていない。いわば、神経戦が続いている。

 心配なのは復帰の機会が長くは続きそうにないことだ。イランは六月に大統領選を迎える。ロウハニ政権は、国民に核合意に伴う制裁解除で経済が向上すると約束して支持を集めた。だが、米国の離脱で果実が届かず、国民は穏健派への失望を隠さない。現状のままでは保守強硬派が勝利するという予想が強く、核合意の枠組み自体が壊れる可能性がある。

 核不拡散のためにも核合意は不可欠だ。バイデン氏周辺には、イランの弾道ミサイル開発の制限が核合意復帰の追加条件とハードルを上げる意見もある。だが、いまは自重すべきだ。合意締結国の中ロや欧州に加え、日本も米国の合意復帰に力を尽くしてほしい。

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