トランプ氏無罪 それでも責任は重い
一月の米連邦議会襲撃事件は米民主主義の汚点である。事件はトランプ前大統領の発言が発端だった。上院は弾劾裁判でトランプ氏に無罪の評決を下したが、前大統領の責任は極めて重い。
トランプ氏が「反乱を扇動した」として訴追された弾劾裁判は、わずか五日のスピード審理だった。
新型コロナウイルス対策などの審議が遅れることを避けたい民主党は、短期決着を図ることで共和党と利害が一致した。社会融和を図りたいバイデン大統領も弾劾裁判から距離を置いた。
だが、事の重大さからみて審理を尽くすべきだった。人的被害だけでも警官を含む五人が死亡し百人以上が負傷した事件である。
共和党(五十人)で有罪票を投じたのは七人にとどまり、有罪評決に必要な出席議員の三分の二には届かなかった。
多くの共和党議員は「大統領を退任した一民間人を有罪にする権利はない」(共和党上院トップのマコネル院内総務)という理由で無罪に回った。
実際は、トランプ氏がなお党内に保持する大きな影響力のせいだ。共和党議員は強固なトランプ支持層の顔色をうかがっている。
トランプ氏は支持者を「議会へ行こう」とたきつけたばかりか、騒乱が激しくなっても収拾になかなか動かなかった。暴動を黙認したに等しい。
無罪票を投じたマコネル氏も「事件を引き起こした実質的で道義的責任が、トランプ氏にあるのは疑いない」と非難した。
根拠もなく不正選挙を言い立て、支持者をあおって権力移行の議会手続きを阻止しようという行為を見過ごすわけにはいかない。
トランプ氏は自らけじめをつけるべきだった。退任間近だったとはいえ引責辞任する道もあったはずだ。ところが本人に反省の色はまったく見られない。
敵と味方を峻別(しゅんべつ)して分断を広げたトランプ流が浸透したせいか、有罪に回った七人の共和党議員には、トランプ氏の支持者から「裏切り者」と罵声が飛んでいる。自分と異なる者を容認しない排他的な風潮を憂える。
加えて、社会分断を縫って勢力を拡大した過激派による国内テロの危険性も指摘されている。
襲撃事件でもろさを露呈した米民主主義の再建は国ぐるみの課題である。共和党の責任も大きい。トランプ主義と一線を画さないと党の将来は暗い。
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