<社説>米国の憎悪犯罪 人種差別解消へ努力を
偏見と差別意識をあおったトランプ政治が尾を引いているのだろうか。米国でアジア系市民を標的にした憎悪犯罪(ヘイトクライム)が横行している。人種間融和は移民大国の重い課題である。
南部ジョージア州アトランタで起きた連続銃撃事件では、韓国系をはじめアジア系女性六人を含む計八人が死亡した。容疑者の白人の男は人種差別による動機を否定しているものの、アジア系市民の危機感は一気に高まった。
昨春ごろからアジア系市民への暴力行為や嫌がらせが急増した。ある非営利団体には昨年三月から今年二月までに約三千八百件の報告があった。このうち今年に入ってからの二カ月間だけで五百件に達している。
一月には西海岸サンフランシスコで、タイ系男性(84)が歩道上で若い男に突き飛ばされて死亡した。全米にある日本の在外公館は憎悪犯罪に警戒するよう在留邦人に呼び掛けている。
コロナ禍によるロックダウン(都市封鎖)や失業によって人心がすさんだような時には、人々の怒りのはけ口は弱い立場の者に向かいがちだ。
それでなくてもトランプ政権時代に入ってヘイトグループは勢いづいた。
そうした下地が出来上がった中で、トランプ前大統領が新型コロナウイルスを「チャイナウイルス」と呼んで中国叩(たた)きを繰り返したことがアジア系市民への反感を増幅させた、と指摘されている。
移民は米社会に多様性と活力をもたらした。「移民を迎え入れるのは米国のDNA」(オバマ元大統領)ともいうが、半面、移民排斥の嵐がしばしば吹き荒れた。
アジア系の場合は、一八〇〇年代の大陸横断鉄道敷設やゴールドラッシュで、安価な労働力となって急増した中国移民への警戒感が高まり、中国人排斥法の制定につながった。
第二次世界大戦の日米開戦後には、「敵性外国人」と見なされた約十二万の日系人が強制収容された。米政府はレーガン政権の一九八八年になって正式に謝罪と補償を行った。
ハリス副大統領は「人種差別は米国の現実であり、常にそうだった」と言う。
一方で、その現実を変えようと、一歩ずつでも前に進むことをやめなかったのも米国である。人々の心の奥底に潜む差別や偏見を克服するために、米国は不断の努力を忘れないでほしい。
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