What the Abolition of the Overseas Contingency Operation Budget Means

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≪政策は「カネの流れ追え」≫

 推理小説で犯人を当てるコツとして「カネの流れを追え」という言葉がある。これは外国の政策を掴(つか)む上でも重要ポイントとなる。アメリカの大統領がいかに立派な演説を行い、同盟国と共同声明を発しても、「先立つもの」がなければ行動には繋(つな)がらない。そして中国共産党政権が常に見つめているのは言葉ではなく行動である。

 4月9日、バイデン政権が来年度の「裁量的予算要求」の概要を発表した。公務員給与など支出が義務付けられた「義務的経費」以外の政策予算で、政権の基本姿勢を端的に読み取ることができる。

 予想通り福祉や「脱炭素社会構築」関連が大幅増となっている。一方、国防については「国防総省の最大課題として中国の脅威に最優先で当たる」と強調されているものの、予算の伸び率は右肩上がりのトランプ時代から大きく後退して1・7%の微増とされた。

 それでも増額である以上、一見問題なさそうだが、同時に打ち出された「予算上の重大な改革」が文字通り重大な意味を持つ。すなわち、「海外緊急作戦を別枠の予算項目として要求することをやめ、国防基本予算の枠内で戦争への対応や作戦継続のコストを賄うこととする」というのである。その文脈において、同盟国との連携強化が謳(うた)われている。

 要するに「海外緊急作戦」については、各地域の同盟国にこれまで以上に責任を負ってもらうという意味に他ならない。

 国防の「基本予算」は、新兵器の開発や装備の調達、またバイデン政権の場合、加えて軍事施設の脱炭素化投資等でほとんどが費消されてしまう。

 一国で世界全体の軍事費の約4割を占める超軍事大国アメリカにおいては、軍事産業の裾野が恐ろしく広い。平和主義を唱える政治家でも、選挙を考えれば、地元に落ちる軍事支出を削減させるわけにはいかない。

 今年1月以降、上下両院で民主党が優位を確保し、上院予算委員長には最左派で対外非介入主義者の代表格バーニー・サンダース上院議員が就いた。当然ながら、軍事費を厳しく刈り込み、福祉に回すよう強く主張している。

 ≪軍事費削減で大鉈の先は≫

 しかしそのサンダース氏でさえ、ロッキード・マーチンが中心となって開発したステルス多用途戦闘機F-35ライトニングIIの部隊を地元バーモント州の空軍基地に誘致すべく熱心に運動し、大統領予備選で一時首位に立つ勢いを見せた昨年、首尾よく実現させた。おかげでバーモントには、航空機部品の一大工業団地が育ちつつある。地元は大いに潤った。「サンダース出馬の真の狙いはここにあったのか」と揶揄(やゆ)の声が上がったほどである。

 反戦主義者のサンダース氏にして然(しか)り。後は推して知るべしである。この現在の政治力学に鑑みれば、軍事費削減を目指す限り、海外での作戦経費に大鉈(おおなた)を振るう以外なくなる。行政府、議会とも民主党が押さえた状況下、「海外緊急作戦」予算の廃止は必然の流れだったといえよう。

 上記の予算方針を決定した直後、バイデン大統領は、アメリカ中枢部を襲った同時多発テロから20周年に当たる今年9月11日までに米軍をアフガニスタンから完全撤退させると発表した。米国の会計年度は10月に始まり9月に終わる。この決定も、単に記念日を意識したというより、10月から「海外緊急作戦」予算が無くなることを見込んだ措置といえる。

 バイデン予算案が骨格を変えずに議会を通った場合、10月以降、海外で突発事態が起こり、仮に米軍が出動しようとしても特別予算は組めず、基本予算を組み替え費用を捻出する以外なくなる。来年は中間選挙の年であり、地元企業に来る予定の軍関連事業費を海外の作戦に回してよいという議員は与野党問わずいないだろう。

 ≪有事に持ちこたえる備えを≫

 なおアメリカの安全に直結しない地域紛争には、米軍ではなく当該国ないしその地域の同盟国が一義的に責任を持つべきだという発想は、民主党左派だけでなく、共和党のトランプ派にも共通している。積極介入論者は今や影が薄い。米議会の予算審議は今後本格化し、夏場にピークを迎える。共和党は総じて、バラマキ福祉と無駄な脱炭素化を阻止し軍事費を積み増すとの立場だが、いかんせん少数派である。

 日本としては、今年秋以降、アメリカの「海外緊急作戦」予算は消えるとの想定の下、尖閣有事への対応を考えねばならない。

 もともとバイデン氏は、オバマ大統領が決行したウサマ・ビンラーディン殺害作戦に副大統領として最後まで慎重論を唱えるなど決断力を欠くことで知られる。米軍が来援するとしてもこれまでより即応性は落ち、しかも予算の制約上、作戦期間が短くなると見ておかねばならない。抑止力として米国の存在は大きい。しかし有事に際しては、基本的に日本単独で持ちこたえ、実効支配を維持していかねばならないだろう。

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