Racism in the US: The George Floyd Case Should Be an Opportunity for Reform

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(社説)米の人種差別 事件を機に改革を前へ

警察の暴力により、市民が命を落とす。そんな理不尽なことが繰り返されてはならない。米国をむしばむ人種差別の根絶に踏み出す起点にしてほしい。

 黒人男性ジョージ・フロイドさんを死なせた元警官に対し、米裁判所の陪審団が殺人罪などで有罪の評決を言い渡した。

 首をひざで押さえつけた時間は9分29秒間に及んだという。「息ができない」と苦しむ動画がSNSで拡散され、抗議のうねりが世界に広がった。

 キング牧師が闘った公民権運動の時代から、ほぼ半世紀。時を経て黒人が大統領にも選ばれる時代にはなったが、警官の過剰な行動で黒人が命を奪われる事件は今も後を絶たない。

 人種間の格差や銃器の蔓延(まんえん)など様々な要因が背景にあるが、米国の警察には、黒人を治安の脅威とみる偏見が染みついていることは否めない。

 米国では毎年1千人以上が警官の実力行使で亡くなっているとされ、うち黒人の犠牲は人口当たりで白人の2倍を超すという。その現実に慄然(りつぜん)とする。

 それでも、警官の刑事責任が問われるのはまれだ。公務中に市民を死なせた警官のうち、殺人などで訴追されるのは1%程度でしかない。有罪に至る例はさらに少ない。

 フロイドさんの事件に抗議する全米のデモには、大勢の白人も加わった。バイデン政権が多様性を重んじたことも含め、社会に確実に変化をもたらしたのは、痛ましい経験を糧に前進を模索する米国らしい出来事といえるかもしれない。

 警察活動を見直す機運もでているが、改革は警察だけでなく司法全体に必要だ。起訴後に死刑が言い渡される割合は、黒人がいびつに高い。ジョージア州では、白人を殺害した黒人が極刑になる率は、黒人を殺した白人の17倍という調査もある。

 コロナ禍は医療や雇用、住宅環境で劣悪な状況に置かれるマイノリティー社会に深い爪痕を残した。アジア系への差別も深まっている。人種差別は決して過去の話ではない。

 分断の克服と人権尊重を説くバイデン政権は、差別根絶を優先課題に掲げている。その約束どおり、平等で公正な社会の実現に努めてほしい。

 外国にルーツを持つスポーツ選手が抗議に賛同するなど、事件は日本でも関心を呼んだ。その一方で「日本に人種差別はない」という声も聞かれた。

 差別を肯定する法制度はなくとも、社会や人心に組み込まれた偏見は容易に消えない。外国出身の隣人が増え、多様化が進む日本も免れない課題であり、足元の人権に真摯(しんし)に向き合うきっかけとしたい。

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