米新政権の予算教書 「大きな政府」が試される
巨額の財政出動で新型コロナウイルス禍からの再生を図る「大きな政府」の成否が試される。
バイデン米大統領は、政権発足後、初の予算教書を発表した。今年10月から始まる新年度の予算編成方針である。
歳出をコロナ前より3割も増やし、過去最大の約660兆円とする。積極財政は今後10年続ける。
1980年代のレーガン元政権以来、減税や規制緩和を柱とした「小さな政府」が主流となってきた。トランプ前政権も大型減税で富裕層や大企業を優遇した。
教書は、米国の経済政策を大きく転換するものだ。
目的は、深刻化した格差の是正である。前政権で取り残された低所得者はコロナ禍に直撃され、相次いで職を失った。消費が冷え込み、景気が一気に悪化した。
このため、中・低所得者向けの雇用対策や子育て支援を充実させる。富裕層や大企業には増税を実施し、所得再分配を進める。
経済が底上げされると、安定した成長が見込める。世界の景気にもプラスに働く。日本は消費が低迷しているが、米国向けの輸出が増えれば、経済が下支えされる。
気がかりなのは、米国の景気を過熱させる恐れがあることだ。
ワクチン接種の進展で成長率は既に6%と高い水準にある。来年の議会中間選挙をにらんだ「ばらまき予算」との指摘もある。景気を過度に刺激すると、インフレを起こしかねない。
今は金融緩和で景気や株価を支えているが、インフレになってしまえば、金融引き締めを余儀なくされる。米国の株価が急落すると世界に動揺が広がる。
財政の悪化も心配だ。増税しても巨額の歳出は賄えず、年100兆円超の赤字が続く。借金残高は過去最悪の水準になる見通しだ。
財政の先行きに不安が広がって金利が跳ね上がると、借金がさらに膨らみドルの信用が低下する。世界で使われるドルの価値が急落すれば、各国の経済が混乱する。
米国の予算は、教書をたたき台にして議会が策定する。ただ与野党には増税反対論が根強く、借金頼みがさらに強まりかねない。
超大国の政策は世界を左右する。責任を自覚し、リスクに目配りした財政運営に努めるべきだ。
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