「冷戦終結後最悪」と言われるほどにまで悪化した国家関係である。一朝一夕に修復できるはずがない。だからこそ首脳同士が顔を付き合わせ、会談したことに意味がある。
国際社会の安定に資するためにも、これを契機として今後も着実に対話が継続されるよう望みたい。粘り強く話し合いを積み重ね、信頼関係の構築に結び付けてほしい。
バイデン米大統領とロシアのプーチン大統領が先ごろ、スイスのジュネーブで会談した。バイデン政権の発足後、初めての直接会談である。
会談は、価値観を異にする米ロが歩み寄ることの難しさを浮き彫りにし、関係改善が一筋縄ではいきそうにないことを強く印象付けた。
民主主義や基本的人権を前面にバイデン氏がロシアの反体制派ナワリヌイ氏の弾圧問題を提起し、サイバー攻撃なども取り上げたのに対し、プーチン氏が反論。これらの問題で話し合いは平行線をたどったからだ。
そうした中で収穫といえるのが、新戦略兵器削減条約(新START)の5年後の失効を見据え、核軍縮やリスク軽減措置を話し合う「戦略的安定対話」の開始で合意したことだ。
米ロは、世界の核の約9割を保有する核大国だ。両国の緊張や対立は、世界の安定にとって脅威となる。「対話」が継続されれば、国際的な不安が払拭(ふっしょく)されることにもなろう。
新STARTは米ロ間に唯一残る核軍縮の枠組みだ。
米ロ間では、トランプ前米政権による一方的な離脱で中距離核戦力(INF)廃棄条約が失効し、中距離ミサイルの規制がなくなった。
新STARTもトランプ政権時代は延長交渉が難航。今年2月の失効期限が迫る中、バイデン氏就任直後の1月にプーチン氏との電話会談で5年間の延長に合意した経緯がある。
ただし、対象は戦略核弾頭とその運搬手段という限られたものだ。「対話」では、新STARTの将来像を協議し、条約対象外の兵器についても議論を広げる構えという。
会談の共同声明では「核戦争に勝者はなく、決して行われてはならない」との原則を守ると約束した。
1985年にやはりジュネーブで会談を行った当時のレーガン米大統領とソ連のゴルバチョフ書記長が共同声明でうたった原則だ。
掛け声だけに終わらせず、この原則に沿って包括的核軍縮につながる新たな枠組みが構築されることを期待したい。
枠組みをより実効性あるものとするために、積極的に軍備を拡大している中国を引き入れる努力も必要だろう。
ロシアの米大統領選への介入などで相互不信を強めていたころの米ロ両国には、大国としての責任感が見えなかった。
今後は首脳会談での合意に責任を持ち、関係改善に生かしていけるのか。両国の出方を注視しなければならない。
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