宇宙を商業利用する時代が見えてきた。米国の宇宙旅行企業2社が相次いで有人飛行を成功させた。
世界的に事業展開する米英の実業家が宇宙旅行ビジネスを目指し創業。独自に宇宙船の開発を進めてきた。
旧ソ連の時代、ガガーリンが人類初の有人宇宙飛行に成功して60年余り。国家が主導した宇宙空間の活動は、急速に民間へ移ってきた。宇宙旅行の実現は、科学技術の進展とともに時代の変化を象徴する出来事と言える。
飛行した宇宙船は高度80~100キロに達した後、放物線を描くように飛び地上に戻る。受ける空気抵抗が少ないため、航空機より圧倒的に速い移動に応用もできる。野口聡一飛行士も宇宙ビジネスは「一気に加速する」とみる。
考えるべきことがある。一つは高額な搭乗費用だ。来年から宇宙観光の展開をにらむ米ヴァージンギャラクティック社には、日本人を含む600人以上が約2800万円で予約しているとされる。
民間宇宙船の機体は再利用するため将来は安くなる可能性があるとされるものの、とても一般に手が届くレベルではない。一部の富裕層向けの特権的な娯楽といった批判が高まりかねない。
課題にも目を向けなくてはならない。ビジネスが成立し、競合が進んだ場合、打ち上げの増加に伴う大気への影響や事故が懸念される。安全や補償に関わるルールも整えておく必要がある。
米国の民間宇宙飛行は、電気自動車大手テスラのイーロン・マスク氏が創業した「スペースX」が先行する。既に国際宇宙ステーション(ISS)へ飛行士を運ぶクルードラゴンを運用。今秋には数日間の地球周回旅行、来年にはISS滞在旅行まで計画する。
米航空宇宙局(NASA)は、ISSへの物資補給機や、引退したスペースシャトルの後継機の開発を民間に委託している。
宇宙空間は米国、中国、ロシアによる覇権争いの場にもなっている。1967年発効の宇宙条約に基づき、民間を含めて公正で安全な宇宙のありようを考えたい。
自ら宇宙船に乗り、数分間の無重力を体験したインターネット通販大手アマゾン・コム創業者ジェフ・ベゾス氏は「巨大な大気が、信じられないほど薄かった」と、地球の繊細さを表現した。
なぜ地球を外から眺めるのか。宇宙に行く夢を追ってきた富豪たちは自らに問い掛け、地球環境を守る機運を世界に広める責任が伴うことを考えてほしい。
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