〈社説〉核合意交渉中断 白紙に戻してはならない
2021/07/20 09:16 長野県 論説 社説
イランの核合意再建の行方が不透明になってきた。8月上旬まで任期が残りわずかとなったロウハニ政権が、米国との交渉妥結を断念した。
交渉は、大統領選で圧勝したライシ次期政権が引き継ぐ。最高指導者ハメネイ師を後ろ盾とする反米保守強硬派だ。穏健派として国際協調路線を保とうとしたロウハニ師とは大きく立場が隔たる。
強硬派が多数の国会は昨年、政権の反対を押し切り、政府に核開発拡大を義務付ける新法を成立させた。開発への動きが一段と強まる恐れがある。敵対するイスラエルを刺激し、中東の軍事的緊張が高まる状況が懸念される。
核合意の再建に向け、欧州連合(EU)などの仲介で始まった米国とイランの間接協議は6月下旬から中断している。イランは新政権発足まで応じない姿勢だ。
両国が対立を深め、中東情勢が不安定化すれば、影響は世界全体に及ぶ。これまで積み上げてきた核合意への努力を白紙に戻してはならない。関係国による早期の協議再開を求める。
間接協議は、イランの原油禁輸や海外との銀行取引など経済制裁を解除する一方、イランもウラン濃縮度引き下げや国際原子力機関の査察を全面的に受け入れることなどを軸に、調整が進んだ。
5月には協議に携わるEU高官から最終合意がまとまる見通しも示されていた。難航したのは制裁解除の範囲だったとみられる。
イランの主導権を握った保守強硬派は制裁の全面解除にこだわっている。ライシ師は現政権側に対して交渉経過に不満を示し、制裁で受けた損害を米国に補償させることも主張したという。
米国の制裁対象には、核関連のほかに弾道ミサイル開発や中東各地での工作活動も含まれる。ライシ師の強力な支持基盤である革命防衛隊が関与している。米国はテロ組織とみなし、関係する数百項目の制裁を維持する方針だ。
今後の協議では、経済制裁の解除を求めるイランがより強硬な態度に出る可能性が高い。トランプ前政権の一方的離脱で核合意を機能不全に陥らせた米国の姿勢も問われる。バイデン米政権はイランに対し、核合意復帰への明確な意志を示しながら、冷静に交渉を進めていく必要がある。
核合意の立て直しに向けては英仏独各国も結束し、交渉実現へ機運を高めてきた。さらに連携して進展への努力を続けてほしい。イランと結び付きの深い日本が外交で果たすべき役割も重い。
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