米アフガン撤退 後始末が残されている
米軍のアフガニスタン撤退が大詰めを迎えている。これに伴い、反政府勢力タリバンは支配地域を急速に広げ、政府軍が隣国に越境する事態も起きた。米国は予想される混乱の抑止に努めるべきだ。
米軍は今月二日、アフガン最大の軍事拠点バグラム空軍基地からの撤収を完了。来月末の完全撤退に向け、主要な作業を終えた。
米軍の撤収と並行し、タリバンは農村部を中心に国土の半分以上を制圧した。急速な進攻の理由は軍事面だけでは説明できない。
アフガンは多民族国家だ。かつてタリバンは最大民族パシュトゥン人の組織だった。しかし、現在はタジク人など他の民族にも根を張り、それが拡大を支えている。
一方、米国などが支援するアフガン政府は腐敗で民衆の求心力を失った。治安部隊からは脱走兵が絶えず、タリバン政権復活を見越した雪崩現象が起きている。
米国は約二十年前、国際テロ組織アルカイダを保護しているとして、当時のタリバン政権を軍事的に崩壊させた。だが、タリバン復活という今日の事態は軍事介入が失敗だったことを示している。
ただ、タリバン復活でアフガンがテロの温床になるとの見方は早計だろう。タリバンは「イスラム国」などの過激派に圧力を加えている。むしろ、懸念すべきは米軍の撤退に伴う混乱だ。米軍協力者はもとより、反タリバン系住民の難民化と国外流出が案じられる。
米バイデン政権は米軍の通訳などを務めた住民を海外で保護する作戦を打ち出した。だが、人数は限定的だ。ベトナム戦争の終結時には大量の「ボートピープル」が生まれた。悲劇を繰り返させぬよう、抜本的な対策を急ぐべきだ。
外交上の課題も山積みだ。敗走した政府軍の一部が中央アジアのタジキスタンへ一時越境したが、この地域に影響力のあるロシアや中国との調整は遅れている。タリバンと太いパイプを持つパキスタンも、対中シフトでインドとの関係強化を優先するバイデン政権に不信感を募らせている。
アフガンをはじめ、アラブ諸国などに対する米国の「民主化」を理由とした介入はいずれも失敗した。その説明責任も問われよう。
この戦争によって二千四百人以上の米軍兵士が亡くなったが、アフガン民間人の犠牲は数万人にも及ぶ。米国には介入の後始末を済ませる責務が課せられている。
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