米国務省ナンバー2のシャーマン副長官が訪中し、王毅国務委員兼外相や謝鋒外務次官と個別に会談した。バイデン政権が発足した後、国務省高官の訪中は初めてとなる。
米中外交トップは3月に米アラスカ州で激論を交わし、価値観の違いと相互不信の深刻さが露呈した。対面での会談はそれ以来だ。
米中対立が激しさを増す中で、今回は双方が緊張緩和の必要性を認識したのだろう。
実務者レベルの接触から仕切り直し、バイデン大統領と習近平国家主席による会談への地ならしとする狙いがあるとみられる。10月末にローマで開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議の場が有力視されている。
今回の協議は計6時間に及んだ。両国が意思疎通を重視する姿勢を示したことを、国際社会は注視している。
だが、関係悪化の責任は相手にあるとの従来の主張を双方が繰り返し、溝の深さを印象づけた。
シャーマン氏は「国際秩序を損なう中国の行動」を批判した。香港や新疆ウイグル自治区の人権状況で懸念を伝え、南シナ海や台湾を巡る情勢に言及した。
いずれも中国にとって最も重要な「核心的利益」だ。王氏は強く反発し、特に台湾問題に関して「挑発すれば、いかなる手段を講じても阻止する」と米国の動きをけん制した。対中制裁の撤回などの要求も突きつけた。
50年前の米中接近を主導したキッシンジャー元国務長官は今月の講演で「米中の衝突は世界を分断させる」と警鐘を鳴らした。
米中は欧州やアジア、中東で影響力を競い合い、経済の分断状況はハイテク産業から金融市場に及ぼうとしている。日本を含む各国が米中間で踏み絵を迫られる事態を警戒している。
国連などの多国間外交も機能不全に陥りかねない。気候変動対策のように、先進国と発展途上国の利害がぶつかる課題は合意形成が一層難しくなる。国益第一ではなく、国際協調を重視するのが大国のあるべき姿だ。
緊張と不信が高まっている時だからこそ、米中は対話を積み重ね、対立を制御する努力を続けなければならない。
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