Spread of Voting Restrictions in the US Violates the Spirit of Democracy

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米国で広がる投票制限 民主主義の精神に反する

米国民に団結を促し民主主義を再生させると訴えたバイデン大統領が就任して半年がたつ。現実は、分断が深まり民主主義への逆風が強まっているように見える。

 象徴的なのは、投票権を制限する動きが各地に広がっていることだ。期日前投票の期間を短縮したり、郵便投票の際に身分証明書の提示を義務づけたりするものだ。

 これらの投票方法は与党・民主党支持が圧倒的な黒人が多く利用する。身分証明書を持っていない人の割合を人種別に見ると黒人が13%と最も高く、制約は大きい。

 今年、ジョージア州など17州で法整備された。ほとんどが野党・共和党の地盤だ。「不正を防ぐため」と主張するが、黒人の投票機会を狭めるのが狙いではないか。

 民主主義の根幹は国民主権であり、公正で自由な選挙によって保障される。選挙権を持つすべての人が投票できることが大前提であるのは言うまでもない。

 あらゆる有権者に公平で、投票しやすい環境を整えるのが政治家の責務だ。黒人に投票権を与え、女性に拡大してきた歴史がそれを実証している。投票制限の動きは、その精神に反している。

 昨年の大統領選で敗北したトランプ前大統領は「不正があった」と主張した。だが、各州の調査では、事務手続きなどに不備があった事例はあったものの、組織的な不正は確認されていないという。

 にもかかわらず、今もバイデン氏を正当な大統領と認めていない人が共和党支持者の5割以上を占めることは、驚くべき状況だ。

 大統領選に敗北した共和党には来年の中間選挙や3年後の大統領選への危機感がある。ゆがんだ党内世論を正そうとせず、むしろ便乗して党勢回復を図ろうとするなら、民主主義をないがしろにしていると言われても仕方あるまい。

 バイデン氏は「投票の権利と民主主義に対する攻撃だ」と非難し、ジョージア州を相手に州法執行の差し止め訴訟を起こした。

 民主党は投票権保護を柱とする選挙改革法案を連邦議会に提出している。だが、共和党の反対で審議できていない。妥協点を生み出す努力をバイデン氏はすべきだ。

 民主主義の優位性を国際社会に向けて訴えても、足元が揺らいだままでは響かない。

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