Is Fed Chair Powell Moving To Reduce Monetary Accommodation?

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FRBパウエル議長は「金融緩和縮小」に動くのか

FOMCでのテーパリング開始時期の言及はあるか

松本 英毅

いよいよ7月27~28日のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、重要な方針が打ち出されることになるのか。委員会を直前に控え、今回は物価に関する経済指標を再検証し、インフレがどの程度深刻な状況になっているのか、考えてみたい。

やっぱりインフレは長期化しそうだ

米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は7月14日、15日の両日、半期に一度の議会証言を行った。6月に開かれたFOMCではFRB高官の金利予測(ドットチャート)で、利上げの開始時期の平均予想が大幅に前倒しされたことは周知のとおりだ。

それを受けて「早期のテーパリング(金融緩和縮小)の開始などに関して何らかの言及があるのでは」との見方もあったが、蓋を開けてみればいつもながらの「パウエル節」だった。つまり「足元のインフレは一時的な要因によるもので、長期化することはない」とし、市場のインフレに対する懸念を払拭するのに躍起になる議長の姿がそこにあっただけだった。

直近のデータを見る限りでは、足元で物価上昇圧力が強まっているのは誰の目にも明らかだ。にもかかわらず、パウエル議長はかたくなに「インフレの要因は一時的」との見解を崩すことはなかった。いつの日か、自分の見立てどおりにインフレ圧力が後退、不安要因が消えてなくなってしまうことを健気に信じているだけ、という印象さえ受けたのだが、それは言い過ぎであろうか。

もちろん、パウエル議長が「インフレは一時的な要因によるもの」と言い張るのは、一定の根拠があってのことである。議会証言の直前、13日に発表された6月の消費者物価指数(CPI)は、前月比で0.9%という2008年6月以来の高い伸びを記録した。

だが、その詳細を見ると、中古車が前月比で10.5%の大幅な上昇となったほか、宿泊料金が同7.9%、航空運賃が同2.7%、ガソリンが同2.5%上昇となったが、確かにこれらは、どれも需要の急増や供給の不足など一時的な要因を背景としたものばかりである。

一方、一度上昇してしまうと下がりにくく、持続的なインフレにつながりやすい家賃や帰属家賃は、それぞれ0.2%、0.3%と、上昇はしているものの、目を見張るような伸びにはなっていない。これらを見る限り、パウエル議長の主張は正しいということができるのかもしれない。

もっともCPIは、3月に前月比0.6%の高い伸びとなって以降、4月が0.8%、5月が0.6%と、すでに4カ月連続で高い伸びとなっているのも事実である。昨年がコロナ禍の真っただ中だったこともあり、あまり参考にはならないかもしれないが、前年比では3月が2.6%、4月が4.2%、5月が4.9%、6月が5.3%と、着実に上昇率が高まってきている。

通常の感覚でいうと、3~4カ月続く上昇は、もはや一時的と呼べるものではない。インフレ圧力は着実に高まってきており、それに対処するためのしっかりとした政策を打ち出す必要にも、迫られているのではないか。

ちなみにこの一時的(Transitory)という表現だが、FOMCは当時のベン・バーナンキ議長によるテーパリングショック(2013年5月)に端を発した前回の金融引き締め局面の初期段階でも、同様の表現を使っている。

その時には2014年末から2年以上にわたって「物価の上昇は一時的(Transitory)な影響によるもの」との文言を声明文に盛り込んでいたのだが、結局その後も物価上昇の流れは止まらず、一時的という文言も削除されている。

その後を受け継いだジャネット・イエレン議長によって利上げが粛々と進められたのは記憶に新しいところだ。今回もまだしばらく一時的との文言を外すことはないのかもしれないが、データの流れを見る限り、2016年と同じ結果となる可能性はかなり高いのではないだろうか。

市場のインフレ期待の高まりや、家賃の上昇には注意

また16日に発表されたロイター/ミシガン大学の消費者物価指数では、1年先のインフレ予測が4.8%と、2008年8月以来の水準まで上昇したことも、大きな意味を持つかもしれない。

FRBは足元の一時的な要因によるインフレよりも、市場のインフレ期待の高まりが持続的なインフレにつながるシナリオを警戒している。

パウエル議長も議会証言ではこのリスクに言及。通常のアメリカ国債と、「TIPS」と呼ばれるインフレ連動国債の利回りの差(=ブレークイーブンインフレ率)という代表的な指標はもとより、インフレに対する調査結果など、あらゆるデータを駆使してインフレ期待の動向を注視していることを明らかにした。今回のミシガン大消費者指数のインフレ予測の上昇について、FRBが「インフレ期待の本格的な高まりの前兆」と警戒している可能性は十分にありうる。

さらに、今回の消費者物価指数には反映されなかったが、経済活動が急速に正常化に向かうなか、アメリカの都市部で再び家賃が上昇傾向にあることにも十分な注意が必要だ。不動産仲介大手のダグラス・エリマン社によると、5月のNYマンハッタンのアパートの家賃の中間値は月に3037ドル(約33万4000円)と、4月から8.8%上昇。ここ10年間で最大の伸びとなった。

前年比では依然として11.1%の下落となっているが、この先人々の移動が活発になってくるにつれ、上昇基調が強まる可能性は高いと見ておいたほうがよいだろう。家賃はその性格上、一度上昇すると簡単には下がりにくく、長期的なインフレにつながるとされている。

利上げは先でも、テーパリングは意外に近い?

パウエル議長は議会証言で「金融政策を変更するのはまだかなり先」との見方を明確に示している。だが、これは利上げの時期を想定してのものと思われる。すでに「テーパリングの開始時期に関しては、6月のFOMCで議論を行ったことを明らかにしており、次のFOMCでもさらに議論を進めるとしている。

また政策に何らかの変更を加える際には、前広に市場に周知していく意向も明確に示している。さらに「インフレは一時的な要因によるもの」としながらも、当局はインフレに対処する手段は十分に擁しており、インフレに長期化の兆候が出てきた際には、速やかに行動に移すとも発言している。

パウエル議長自身は、早期の政策変更には慎重なのかもしれない。だが、状況がさらに変化した場合には、しっかりと準備しているということなのだろう。

前出のように、6月のFOMCにおけるドットチャートの変化を見ても、それまでハト派的な姿勢を見せていたFRB高官の何人かが、タカ派的な方向に方針転換したのは明らかだ。

今後のFOMCで、参加者から早期のテーパリング開始を求める声が強まるのは間違いないだろう。パウエル議長もそれをまったく無視するわけにもいかなくなるだろう。今回のFOMCの声明文やその後の議長会見において、テーパリング開始のスケジュールについて何らかの具体的な言及がある可能性は、かなり高いと見てよいのではないか。はたして、そのときに市場はどう反応するのか。

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