America’s Example Shows Why We Need To Worry about Vexatious LGBT Lawsuits

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差別や偏見はあってはならない。しかしその解消を錦の御旗にやみくもな伝統破壊や利権獲得を目指す勢力があることも事実である。そうした活動家によってまじめに働く常識人たちの生活が脅かされることがあってはならない。

その点、危惧せざるを得ないのが「性的指向および性自認を理由とする差別は許されない」とする、いわゆるLGBT法案である。差別の定義は明示されていない。推進者らは、同性愛者など性的少数者(LGBT)問題をめぐって濫訴(らんそ)や逆差別の恐れはないと言うが、果たしてそうか。問題が先鋭化して久しい米国の例を見てみよう。

ウエディングケーキめぐり

2012年、コロラド州の菓子職人、ジャック・フィリプス氏が、ゲイ・カップルからの創作ウエディングケーキの注文を、自身の信仰を理由に謝絶した。その際、既製の焼き菓子や誕生日ケーキなら喜んで売ると述べている。

自らを「ケーキ・アーティスト」と呼ぶフィリプス氏は、婚約者たちから、なれそめや将来の夢を聞きつつ、芸術的感興の赴くままに一個の作品に仕上げていく過程に喜びを見出(みいだ)していた。フィリプス工房のホームページには次の一文がある。「ジャックはどなたにも喜んでケーキを創ります。しかし、その宗教的信念と相容(あいい)れない注文には応じられません」

一流画家が肖像画の注文を断るなら分かるが、一介のケーキ屋が何を生意気なと言うなら(実際左翼からはそうした批判が出た)、それこそ差別、偏見だろう。

ゲイ・カップルからの告発を受けた州の公民権委員会は、フィリプス氏の注文謝絶は「性的指向を理由とした差別」に当たると認定し、以後、ケーキの制作に応じるよう命じた。また、LGBT専門家による「包括的な従業員教育」を実施し、四半期ごとに状況を報告せよとの指示も出した。

フィリプス氏は拒否し、ウエディングケーキ事業から撤退する道を選んだ(その結果、売り上げが40%減ったという)。もっとも泣き寝入りはせず、信仰に反して同性婚への祝福を強要するのは憲法違反だとする訴訟を起こす。

菓子職人への一方的「敵意」

18年、連邦最高裁は7対2でフィリプス氏勝訴の判決を下した。法廷意見(多数意見)は次のように言う。公民権委員会は同性愛者の尊厳と信仰の自由の両立を図るべきだったが、フィリプス氏に一方的に「敵意」を向けた。「彼の誠実な宗教的信念を奴隷制やホロコーストに喩(たと)える委員もいた。異議を唱える委員は一人もいなかった」

この種の「人権擁護」委員会は左翼の根城となりやすい。まさにそうした状況が生まれていた。

保守派のゴーサッチ判事は追加意見で「この国が宗教的自由の確たる保護者であり得るかは、不人気な信仰を守れるかどうかに懸かっている」と述べ、同性婚容認が時代の潮流であるからこそ、フィリプス氏の「不人気な信仰」は一層保護されねばならないとした。

この法廷意見に「強い異議」を唱え、同性婚と異性婚を区別するいかなる行為も許されないと主張したのが、最左派のギンズバーグ判事である(昨年9月、在任中に死去。米史上2人目の女性最高裁判事)。

自民党議員でLGBT法案に熱心な稲田朋美氏は、かねてギンズバーグ判事への憧れを吐露してきた。次のような哀悼メッセージを発してもいる。「ギンズバーグ女史がお亡くなりになりました。女性が偏見にさらされている時代、信念をもって法の正義と公平を実現した偉大な法律家でした。一度お会いしたいと思っていたので残念です」。稲田氏は、LGBT問題でもギンズバーグ判事の立場を支持するのだろうか。

日本の近未来にならぬよう

フィリプス氏は、裁判には勝ったものの、6年間、好きなウエディングケーキ作りに携われず、収入減にも耐えねばならなかった。しかも、あるトランスジェンダー「女性」(以下A)から、新たな狙い撃ち訴訟を起こされた。

自身の誕生日と性転換7周年を兼ねた祝賀会用ケーキをフィリプス氏に注文したが断られた、「ウエディングケーキは駄目だが、バースデーケーキなら受ける」という発言と矛盾するというわけである。Aは弁護士資格を持つLGBT活動家だった。

性転換を祝うケーキは、やはり宗教的信念から作れないというのがフィリプス氏の立場だったが、Aと支援弁護団はその後も、微妙に適用法令を変えつつ立て続けに訴訟を起こしている。

彼らにとって、「有名なフィリプス」は宣伝効果が大きい、格好のターゲットだった。

日本でもLGBT法という武器を左翼活動家に与えれば、同様の濫訴に見舞われる個人や企業が少なからず出てこよう。

日本の近未来ともいえる米国の状況については、対中国、対北朝鮮政策と併せ、拙著『アメリカ解体』(ビジネス社、8月下旬刊)で詳述した。参照いただければ幸いである。(しまだ よういち)

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