On the 76th Anniversary of the Dropping of Atomic Bombs, Japan Stands at the Forefront of Nuclear Disarmament

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世界はいま、核の恐怖の果てにある破局か、それとも、より安全な共生の未来か、どちらの道へ進むかの分岐にある。

 米国と中国の覇権争いを筆頭に、欧州・アジア・中東で国家間の対立が熱を帯び、核戦争の不安を高めている。

 一方で、だからこそ協調の価値を見いだし、国家の枠組みを超えて「核なき世界」をめざす潮流も勢いづいている。

 76年前のきょう、広島に原爆が投下された惨禍を思うとき、選ぶべき道は明らかだ。二度と再び人類の過ちを繰り返させない。その誓いと行動の先頭に、日本は立たねばならない。

 ■危うい大国間の競争

 世界が凍った1962年のキューバ危機より4年前、日本が核の戦場になりかけた――。この経緯を記した米国の機密文書が最近、明るみに出た。

 中華人民共和国の成立から9年後、中国が台湾の金門島を砲撃した際だ。米国は中国軍基地への核攻撃を検討した。

 「(情勢悪化すれば)中国の奥深くに核攻撃するほかなし」「(ソ連が)沖縄を核で報復するかもしれないが、結果は受け入れねばならない」

 結局、大統領の判断で攻撃は回避されたが、米施政下の沖縄の犠牲も辞さない主戦論があった事実に慄然(りつぜん)とする。

 それから60年余り。核をめぐる事態はより複雑になった。

 米国とロシアに加え、中国も核を保有し、軍拡の流れを強めている。一方、いまの日米中台の経済は密接に絡みあい、単純な対立構造でもない。

 だが、多くの戦争がささいな摩擦や誤認、過信などから生まれた歴史の教訓を顧みれば、危うさに変わりはない。

 この緊張のなか、日米は今年の首脳会談で、「台湾」をめぐる認識を共同声明に盛り込んだ。日本が中国と国交正常化して以来初めてのことだ。

 限定的とはいえ集団的自衛権を行使できるよう、日本政府は憲法の解釈を変えている。ひとたび台湾有事になれば、米国から関与を求められるだろう。

 ■「核戦争に勝者なし」

 米国内では、中国への抑止力を高めるために、中距離弾道ミサイルを日本に配備する構想まで語られている。

 大国の国力の争いに、日本はどう距離を保ち、ルール主導の秩序を築くか。そんな主体的構想は描かぬまま、渦中に身を投じていく。それが残念ながら、いまの日本の姿ではないか。

 米国の退潮に伴い「核の傘」の信頼が弱まり、同盟国に核武装の連鎖が起きかねない。世界ではそんな懸念も論じられる。科学者らが警告する地球滅亡までの終末時計は、最悪の100秒前で止まったままだ。

 そんななかでこの6月、核の2大国である米ロの首脳会談が注目すべき声明を発した。

 「核戦争に勝者はなく、決して戦われてはならない」

 85年にレーガン大統領とゴルバチョフ書記長が交わした誓いの言葉を再現したものだ。

 角突き合わせつつも、理性と危機意識を保つという責任と矜持(きょうじ)の表れであるならば、行動で示してもらいたい。

 米ロを含む核保有国は、核不拡散条約が定める軍縮交渉義務に背を向けている。それでいて、新興国の核開発は許さぬという身勝手な態度が、軍備管理のモラルを侵食してきた。

 米ロは声明の後、高官協議を始めた。そこを起点に、中国も巻き込む新たな交渉枠組みを立ち上げるべきだ。バイデン米大統領は核の先制不使用宣言を実現させて、中国との対話機運を醸成してもらいたい。

 宣言をオバマ政権が検討した際、日本政府は反対した。「抑止力を弱める」との理由だが、核の恐怖で核を制する危うい思考にいつまで拘泥するのか。

 ■核禁条約に関与せよ

 日本の役割は、対米同盟と、中国との歴史的結びつきを生かして米中対話を促す「触媒」となることではないか。北朝鮮の核問題を含む包括的な「北東アジア非核地帯」を視野に、長期的な道筋を練るべきだろう。

 大国が動かぬなら、非核保有国と国際世論で核廃絶の歯車を回す。その志が結集した核兵器禁止条約が、今年発効した。

 不拡散条約を堅持する核保有国は核禁条約を拒んでおり、日本もその立場だ。だが、二つの条約は同じ核廃絶のゴールへ「補完しあう関係」(中満泉・国連事務次長)である。

 来年は核禁条約の初の締約国会議がある。広島・長崎の被爆者、核実験被害者、各国代表、NGOなども一堂に会する。そこに唯一の戦争被爆国の政府代表の姿がなければ、深い失望を歴史に刻むことになろう。

 核禁条約を肉付けする作業はこれからだ。核廃棄のルールづくりに関与するのは、北朝鮮の脅威の下にある日本にとって死活的に重要であるはずだ。

 核実験の被害者の支援や環境回復を進めるうえで、日本の教訓と知見も生かせる。まずは、オブザーバー参加し、国際社会との連帯を示すべきだ。

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