The Collapse of Afghan Democratization: A Defeat Invited by America’s Overconfidence

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米同時多発テロから20年に及ぶ戦争の無残な終幕と言うべきか。

 アフガニスタン旧支配勢力タリバンが首都カブールを制圧し「勝利宣言」した。ガニ大統領は国外に脱出し、政権は崩壊した。

 その瞬間のカブール市内の情景は異様だった。武装したタリバン戦闘員が行政機関を掌握し、大統領執務室も占拠した。

 トラックで逃げ出したり、銀行から預金を引き出そうとしたりする市民の姿が見られ、米国大使館員を退避させる米軍ヘリコプターが何度も往来した。

 米メディアは、1975年のベトナム戦争の「サイゴン陥落」で大使館員がヘリで避難する映像に重ね、「カブール陥落」と表現した。米国にとって屈辱の光景だ。

最長戦争の無残な終幕

 またたく間にタリバン支配の復活を許すきっかけとなったのが、バイデン米大統領が進めた駐留米軍の撤収だ。力の空白を突いた。

 「タリバンが全土を制圧することは、まずあり得ない」。わずか1カ月前の発言をバイデン氏は後悔しているに違いない。

 2001年の米同時多発テロに対して国連安全保障理事会が米国と同盟国に反撃を容認し、始まったのがアフガン戦争である。

 米英軍が、テロを主導した国際テロ組織アルカイダと、かくまっていたタリバンを攻撃し、治安維持を目的とする多国籍部隊が駐留した。国際社会が隊列を組んだテロとの戦いだ。

 だが、「大義」を掲げた戦いは泥沼化し、米史上最長の戦争となった。背景には、歴代政権による対テロ戦争の迷走がある。

 同時多発テロ発生時のブッシュ政権はアフガン戦争に続いてイラク戦争に突き進み、対テロ戦線を拡大した。オバマ政権はアルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者を殺害したが、それに安心してアフガンの国家再建に目を向けなかった。

 トランプ政権は国内のえん戦気分を背景にアフガンの人々の失望を顧みず米軍撤収を急ぎ、タリバンの力を軽視したバイデン政権はそれを踏襲した。

 アフガン政府の責任も重い。国際社会からつぎ込まれた巨額の復興資金を私的に流用し、高まる政治不信の声に耳を貸さなかった。

 政府軍への給与支払いは滞りがちで、その不満につけ込んだタリバンが高給を約束して若者を取り込んでいった。米軍から支給された最新装備が金目当てで横流しされるケースもあったという。

 戦況を決定付けたのは、米軍の撤収が進み、後ろ盾にしてきた政府軍がタリバンの急襲に対抗できなくなったことだ。主要都市への進攻に相次いで投降せざるを得なくなったという。

 対テロ戦争で優位に立っているとおごる米国、米軍の保護に頼って自立しないアフガン。それぞれの慢心や過信が情勢をより混迷させてきたのは間違いない。

テロ包囲網の再構築を

 問題はタリバンがどんな国家運営をするかだ。以前はイスラムの教えを独自に解釈し、女子教育や娯楽を禁じ、むち打ちなどの刑罰を科して国際的な批判を浴びた。

 この20年でアフガン社会には民主化が少しずつ広がり、女子教育も保障された。今回、女性の就労が禁止された地域があるという。圧政を復活させるのは論外だ。

 国連安保理は「タリバン政権の復活は支持しない」との報道声明を発表した。国際社会の監視が欠かせないことは言うまでもない。

 最も懸念されるのが、アフガンが再びテロの温床となることだ。昨年の和平合意でタリバンはアルカイダをかくまわないと米国に確約している。しかし、約束を破って地元住民から略奪を繰り返しており、アルカイダの排除にも疑念が残る。米軍は2年以内にアルカイダがアフガンで本格的に復活する恐れがあるとみている。

 同時多発テロ以降、世界情勢は大きく変わった。アフガンだけで約880億ドル(約9兆6800億円)を投じ、米兵約2400人を犠牲にした米国の疲弊は著しい。一方で、この間に中国は台頭し、米国を脅かす存在になった。

 「カブール陥落」は、国際社会における米国の威信低下を加速させるだろう。米国主導の民主化は失敗したが、テロとの戦いは終わったわけではない。

 テロは国際社会共通の脅威だ。米中やロシアを含め、世界的な対テロネットワークの再構築を急ぐ必要がある。

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