US Releases COVID-19 Report*

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米国が新型コロナ報告書公開

2021/9/6 10:00住井 亨介三塚 聖平

 米国は8月27日、新型コロナウイルスの起源をめぐる調査報告書を公表した。情報機関がまとめた報告書は、ウイルスが中国湖北省武漢市のウイルス研究所から流出したのか、動物から人に感染したのかという2つの仮説について結論を見送った。米国はさらなる調査が必要との立場で中国への圧力を強化する姿勢を見せる。一方、中国は「でっちあげの報告」と猛反発。「完全な政治報告、虚偽報告で、科学性と信頼性が少しもない」と非難した。

米国 起源解明さらなる調査必要

 米情報機関を統括する国家情報長官室(ODNI)が公開した新型コロナウイルスの起源をめぐる調査報告書は、「ウイルス研究所流出説」「動物・人感染説」について、情報機関の意見が割れたことを明らかにした。

 報告書への米メディアの関心は高く、公開の数日前から報告書が確定的な結論を出さないことが報じられていた。米メディアは、この報告書でウイルスの起源の議論を幕引きにするのではなく、さらなる調査が必要との認識を示している。

 調査はバイデン大統領が5月に90日以内に報告するよう情報機関に対して指示していた。報告書は「生物兵器として開発されたものではない」としたものの、ある情報機関は、「初めてウイルスに人が感染したのはウイルス研究所での実験や動物を取り扱った際の事故の結果」だった可能性が高いと評価した。

 8月27日の米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は、現・元職の当局者の話として、連邦捜査局(FBI)が研究所流出説を支持していたと報じている。

 ウイルス研究所流出説は、ポンペオ前国務長官が力説。「相当な量の証拠がある」と強調していた。だが、今回確定的な結論を導き出せなかった報告書は、証拠不足を理由に「結論的な評価に至るには中国の協力が必要」と指摘。世界保健機関(WHO)の調査に非協力的な姿勢を示した中国を批判した。

 バイデン氏は「この感染爆発の起源を明らかにするためには何でもする」と宣言。真相解明に向けて中国に今後圧力を加えていくことを明言しており、調査は何らかの形で継続されるとみられる。

 一方、米アリゾナ大の進化生物学者、マイケル・ウォロビー氏は、27日の米公共ラジオ(NPR、電子版)に対し、「これは情報機関の報告書であり、科学的な報告書ではない」と指摘し、改めて科学者による報告書の作成が必要との認識を示した。

 いずれにしても何らかの形で中国の協力が必要になるとみられるが、見通しは明るくない。公表の前に報告書の内容を報じた24日の米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)はバイデン政権高官の話として「中国(の扉)をこじ開ける特効薬はない」と否定的見解を伝えている。

 ただ、米CNN(電子版)は8月5日、米情報機関がウイルス研究所で研究されていたウイルスのサンプルの遺伝子情報を含むデータを入手したと報じた。今回の報告書にどれほど反映されたかは不明だが、今後の分析で起源解明につながる可能性もある。(住井亨介)

中国 「でっちあげ」問題を政治化

 米国家情報長官室(ODNI)が公開した新型コロナウイルスの起源に関する報告書に対し、中国政府は「でっちあげの報告」と猛反発した。馬朝旭(ば・ちょうきょく)外務次官は8月28日に発表した談話で「完全な政治報告、虚偽報告で、科学性と信頼性が少しもない」とし、米国に厳正な申し入れを行ったことを明らかにした。

 起源調査は「対中圧力」の一環であり、問題を政治化しているという構図を中国は描く。30日付の中国共産党機関紙、人民日報は「政治的な起源解明は八方塞がりだ」と題した評論員名義の論評を掲載。米国に対し「科学と事実を顧みず、中国への中傷や攻撃を行った」と非難。「その目的は、起源問題を利用して中国に責任を転嫁し、政治的なウイルスをまき散らすことにある」と主張した。

 王毅(おうき)国務委員兼外相は29日に行ったブリンケン米国務長官との電話会談で、ウイルス起源問題は「(トランプ)前米政権が残した政治的な重荷だ」と撤回を促した。

 また、馬氏は「米国が情報機関を使って起源解明を行っていること自体が、政治化していることの動かぬ証拠だ」と強調。

さらに、在米中国大使館が28日付で発表した声明は、過去に米情報機関がイラク開戦の根拠となった大量破壊兵器に関して誤った報告を行った例などを挙げて、「歴史上、米情報部門は少なくない『傑作』を出している」と揶揄(やゆ)した。

 中国メディアは、新型コロナ対応に関する米国の「失敗」や「疑惑」を重点的に報じている。中国が伝える米国の「失敗」は、新型コロナの感染者と死者が世界最大になっていることだ。国営中央テレビが毎晩放送している看板ニュース番組「新聞聯播(しんぶんれんは)」は、米国の感染状況を毎晩大々的に報じ続けている。

「疑惑」に関しては、米メリーランド州の陸軍医学研究施設と、米ノースカロライナ大がやり玉に挙げられている。例えば、陸軍医学研究施設は「旧日本軍731部隊の細菌戦のデータを保管していた」「2019年に重大安全事故が起きて(一時)閉鎖された」といったことが中国メディアで盛んに伝えられている。

 24日に在ジュネーブ中国代表部が世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長に送った書簡で、起源解明のため米国の両施設を調査することまで求めている。

 米国に対する宣伝戦を繰り広げている中国。国内では一定の理解を得ているとみられるが、中国の新たな「戦狼(せんろう)外交」に海外での反発がさらに強まる可能性がある。(北京 三塚聖平)

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