これが独立した主権国家の態度であろうか。本来、米軍自らが焼却処分すべき汚染水について日本政府が引き取って焼却すると発表した。国民の税金約9200万円を投じ肩代わりする異例の対応だ。
汚染水には、発がん性リスクが指摘されている有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)が含まれる。在沖米海兵隊が8月に米軍普天間飛行場からの汚染水を焼却処分せず、濃度を薄めて県内の公共下水道に放出したため県や宜野湾市が反発していた。今回、日本政府が焼却するのは残りの汚染水36万リットルで、ドラム缶1800本分に相当する。
これらの放出は避けられるものの、米軍の横暴をこれ以上、許してはならない。国の主権に関わる重要な問題だ。日本政府は両国間の外交問題だとして米側の姿勢を改めさせるとともに、在日米軍のPFASの実態を調べ上げて焼却処分を徹底させるべきだ。
発端は米軍の理不尽な強硬姿勢だ。焼却は費用がかかるとして処理装置で汚染水の濃度を下げた水を公共下水道に流した。米軍は日本の飲料水の目標値を下回っているというが、国や県が放出前に確認する手だては担保されていない。放出直後に宜野湾市が下水から採取した水から高濃度のPFASが検出された。
これでは米軍を信用できない。県民の健康や生命が守れない。県や宜野湾市などが強く反発するのは当然である。日本政府も汚染水の処理は本来、米側が自ら負担して実施すべきだとの立場で、各種ルートを通じて米側に抗議し放出中止を求めた。米軍の「特権」を担保する日米地位協定にでさえ、処分の肩代わりは規定されていない。
だが今回、肩代わりするのは、台風などの影響で地下貯水槽に漏水が入り込み、あふれる懸念への「緊急的な暫定措置」だという。地下貯水槽への雨水流入を防ぐため航空機
格納庫の補修費も日本負担だ。
その懸念があるなら、米側に早期に焼却処分させるだけである。それがなぜできないのか。あまりにも弱腰である。
日本政府が1972年の沖縄返還に向けて米軍用地の原状回復費400万ドルを肩代わりするとした沖縄返還密約をほうふつとさせる。来年は返還50年を迎える。県幹部から「いつまで米国の尻ぬぐいをするのか。半植民地だ」との声が漏れるのも無理はない。
自民党総裁選の論戦では、「中国への脅威」を想定した安全保障政策を巡り「したたかな外交が必要」(河野太郎氏)、「領土、領海、領空を守る姿勢を示す」(岸田文雄氏)、「敵基地攻撃能力を可能に」(高市早苗氏)、「賢い国家としての立ち位置を極める」(野田聖子氏)と、あるべき日本の国家観への発言が勇ましい。
だが沖縄が今直面しているのは米軍による環境汚染の脅威という喫緊の課題だ。国の主権を懸けて解決する意思を示せないのならどんな国家観も響かない。
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