米連邦準備制度理事会(FRB)は、コロナ禍に対処してきた異例の金融緩和策を、正常化に向けて転換することを決めた。経済動向を見極め、慎重に進めてほしい。
FRBは、景気を刺激するために市場に大量の資金を流し込んできた量的緩和策について、月内から規模縮小に着手するという。
現在、米国債と住宅ローン担保証券を毎月、計1200億ドル(約14兆円)購入して資金供給しているが、これを月150億ドルずつ減らす方針だ。2022年6月頃に終了するとみられている。
FRBは20年3月、新型コロナウイルス対策として事実上のゼロ金利政策と量的緩和を始めた。
株価を押し上げたほか、企業の資金調達を助け、21年4~6月期の国内総生産(GDP)をコロナ前の水準に回復させた。景気浮揚に効果を上げたと言えよう。
一方、米国では今春から物価上昇が激しくなっている。物流の混乱や半導体不足、感染を恐れる人の就労回避などによる「供給制約」が主因だ。消費者物価指数の前年同月比の伸び率は、9月まで5か月連続で5%台となった。
金融緩和を続ければ、さらにインフレが加速するリスクがある。量的緩和の縮小は妥当である。
今後の焦点は利上げの時期だ。市場では、インフレを抑えるために、22年に2回程度利上げするとの予想が出ている。
ただ、供給制約が響き、米国の7~9月期の成長率は減速した。利上げは景気の過熱を抑止するためのもので、タイミングを間違えると経済が失速しかねない。
緩和策を受けて米株式市場は史上最高値圏にあり、市場の予想に反する政策変更を行えば、金融市場を混乱させる恐れがある。
FRBのパウエル議長は物価上昇は一時的だとみており、利上げを急がない姿勢を示している。景気に目配りした政策運営とともに丁寧な情報発信が不可欠だ。
米国の利上げや、それに伴うドル高が見込まれる一方、日本では消費者物価が上がっておらず、金融緩和が続く見通しだ。そのため、円安・ドル高が進んでいる。
円安は、輸出企業の業績を改善させる反面、原油を始めとする輸入物価の上昇を招き、運輸業など内需企業のコストを増やす。景気が低迷する中で消費者向けの価格転嫁が難しく、下請け企業へのしわ寄せも懸念される。
過度な円安はマイナス面もある。政府・日本銀行はFRBの政策転換の影響を注視すべきだ。
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