原油の主要消費国による協調行動が、価格の安定につながるのか。各国政府は、その必要性について丁寧に国民に説明するとともに、産油国との対話にも努めるべきだ。
米国のバイデン大統領は、日本を含めた主要国と連携し、政府の石油備蓄を放出すると発表した。米国は今後数か月かけて、国内消費量の約3日分にあたる計5000万バレルを供給するとしている。
米国の要請を受け、岸田首相は国家備蓄を初めて放出すると表明した。中国、インド、韓国、英国と共に6か国で行うという。主要国が歩調を合わせて国家備蓄を放出するのは、極めて異例だ。
原油価格の高騰は世界経済の大きなリスクになっており、その沈静化を図る狙いは理解できる。
車社会の米国では、ガソリンの値上がりで国民の不満が高まっている。物価上昇がバイデン氏の支持率低下の一因になっており、備蓄放出を支持率の回復につなげる思惑があるとみられる。
日本では、石油元売り会社などを対象に、国内需要の数日分を売却する意向だという。
日本でも、ガソリン価格は1リットルあたり170円近くと、7年ぶりの高水準にある。ただ、初の国家備蓄の放出に踏み切るほど危機的な高値とは言い難い。対米協調の意味合いが強いのだろう。
1970年代の石油危機を受けて制定された石油備蓄法は、災害時や海外からの供給途絶に備えるもので、価格抑制は本来の目的ではない。そのため、法律で決めた備蓄量は確保し、それを超える余剰分の一部を取り崩す方針だ。
石油備蓄法では、国家備蓄は90日分以上、民間備蓄は70日分以上などと定めている。9月末時点で国家備蓄は145日分、民間備蓄は90日分あるという。
災害時などのために放出は最低限にとどめ、供給への不安が生じないようにせねばならない。
一方、協調放出が原油相場を押し下げるかどうか、効果のほどははっきりしない。指標となる米国の原油先物価格は、備蓄放出の表明後、やや値上がりした。
逆に、産油国が対抗上、現在の増産ペースを落とすのではないかとの観測も出ている。消費国と産油国の対立が激化すれば、市場はさらに不安定になりかねない。
原油高騰の長期化で世界経済が失速し、需要が急減すると、産油国側の打撃も大きい。消費国は、原油市場の安定こそが産油国の利益になることを説明し、粘り強く増産を働きかける必要がある。
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