強権国家は顔認証などのデジタル技術を反体制派の弾圧や監視、言論統制に使っている。日米欧の技術が拡散し、人権侵害に悪用される事態を防がねばならない。
米国が豪州、デンマーク、ノルウェーとともに、監視技術の輸出を管理する国際的な枠組みを創設すると発表した。人権侵害の阻止に向けた多国間の輸出管理体制は初めてで、英仏、オランダ、カナダも支持を表明している。
規制の対象となるのは、人工知能(AI)を使った顔認証技術や監視カメラ、スマートフォンから位置情報やメール内容を抜き取る「スパイウェア」などだ。
先端技術は、正当に利用すれば人々の知識や交流をより豊かにし、自由で開かれた社会を進展させる力を持つ。だが、使い方によっては、政府が反対勢力を特定、追跡し、立場が異なる意見の検閲や封殺を進める道具にもなる。
中国は、新疆ウイグル自治区で少数民族ウイグル族の弾圧に監視技術を駆使しているとされる。米政府は、香港拠点の中国企業がウイグル族を識別する技術を中国政府に提供したとして、投資禁止などの制裁を科した。
日米欧の高度な技術が中国に取り込まれ、さらに、中国の監視技術が他の強権国家に拡散するという連鎖を生んではならない。
今回の米国主導の枠組みでは、輸出基準などを定めた行動規範を作成し、参加国がこれを基に国内の管理体制を整備するという。行動規範に拘束力は持たせない。国によって輸出管理の法体系が異なることに配慮したのだろう。
日本は現時点で枠組みへの参加や支持を表明していない。国内法の未整備が一因とみられる。
先端技術が実際に、輸出先でどのように使われるのかについて、一つ一つ点検するのは難しい面もある。日本は米国と緊密に意見交換したうえで、どの技術をどのように輸出規制すべきか、具体的な検討を加速させるべきだ。
イスラエルの事例は他山の石となる。自国企業のスパイウェアが輸出先で政治家やジャーナリストの監視に悪用されているとの強い批判を受け、規制を決めた。
この製品の輸出認可にあたり、テロや重大犯罪の防止にしか使わないことを、販売先の政府に誓約させるという。
IT先進国にとって、高度な技術は経済の活力となるが、輸出して終わりでは済まされない。民主主義国家が範を示してこそ、強権国家への圧力を強められる。
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