What Company Renewal of Market Capitalization in a US International Political Slump Means

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企業は時価総額を更新も国際政治では低迷する米国が意味すること

脱炭素時代に、国際政治における米欧の影響力は入れ替わるか?

新年早々、アップルの時価総額が3兆ドルを超えたとのニュースが駆け抜けた。日本円にして300兆円余り、日本の年間の国家財政支出(特別会計等を除く)の約3倍という規模である。

ちなみに、財政制度が違うので単純比較できないが、米国の2022年の財政支出は6兆ドル(約684兆円)だ。

アップルだけではない、アルファベット(グーグル)、アマゾン、マイクロソフト、テスラなど時価総額上位には米国の巨大IT企業が並ぶ。

一方、国際政治を見ると、昨年のアフガニスタンからの撤退をはじめ、米国の影響力は全体的に低下気味である。

国際政治と経済において、経済やビジネスは好調だが、政治的影響力は低下している(もちろん、コロナ禍の国内経済の影響や格差の問題は大きいが、本稿では国際政治経済をテーマとするので一旦は横に置く)。

本稿では、米国の経済と政治の影響力の乖離が国際社会にどのような影響を与えるのか、我々はどう行動すべきかを考えたい。

議事堂襲撃事件が世界に与えた衝撃

米国の国際政治からの衰退の要因を、改めて直近の事象から順に整理したい。

第一に、昨年の議事堂襲撃事件の影響だが、民主主義の旗手としての地位に大きな汚点を残し、その影響力に陰りが見えたことだ。

 

1月5日付けのNew York Timesに、襲撃事件が国際社会における影響力低下につながるという有識者の論説が大きく掲載されている。

Opinion | The Impact of Jan. 6 Is Still Rippling Throughout the World – The New York Times (nytimes.com)

凄惨な襲撃事件を経ても、共和党員の多数はいまだに大統領選挙に不正があったと考えていることが、民主主義の旗手としての評価に疑問符がつく一因である。選挙自体の不正に慣れていない日本人には理解しにくい意見だ。

そもそも、米国は世界が思うほど選挙が公正ではない。もちろん、票数自体の操作といった不正はほぼない(不正を指摘する声はある)。投票時間や選挙人の登録など投票制度を変更することで、黒人などマイノリティの投票を事実上、難しくしているという事例は多数ある(多くは共和党が強い州政府などで実施されている)。

自らの政党に有利な方に投票制度を変更することは頻繁にあるため、国民の間に選挙自体の不正という意見が生まれてしまう。

米国は独立後、世界で最初に国家元首を国民の選挙で選んだ国である。だが、「民主主義の米国も、選挙結果を暴力で覆そうとする暴動が起こりうる」というイメージを世界に与えた。

友好国に甘く、敵対国に厳しいダブルスタンダード

第二に、先述した巨大IT企業の経済・ビジネスにおける影響力は健在であるものの、個人情報保護問題などで批判が強まり、国際政治の影響力強化にはつながりにくいことだ。

世界の時価総額上位企業には、サウジアラムコや台湾のTSMCなどを除き、米国IT企業やIT関連企業が並ぶ。米国発祥の巨大IT企業が多くのプラットフォームを形成し、巨大な利益を上げている。この点は陰りがあるというより、むしろその力が強まっているとさえ言える。

ただ、その巨大IT企業のビジネス上の影響力が巨大化することで、個人情報保護やフェイクニュース、優越的地位の利用による取引企業への圧迫など様々な問題が生まれており、米国の国際政治における影響力という点では必ずしもプラスに働いていない。むしろ米国の巨大IT企業は批判の矛先になっている。

第三に、脱炭素をはじめ地球的規模の課題に対して、米国の影響力や関与はEUと比較して大きくないということだ。

バイデン大統領の就任後、パリ協定には再参画をした。しかし、シェールガスを含めた石油産業の影響力が相対的に強い米国では、EU諸国に比べると脱炭素への取り組みは遅れている。ESG投資の金額においても、各種分析ではEUの後塵を拝している。

国際的な関心事項である人権問題については、かねてからダブルスタンダードが指摘されている。すなわち、米国に敵対する国には厳しく対応する一方、友好国には甘いのである。サウジアラビアのジャーナリスト・カショギ氏殺害における米国政府の甘い対応はその典型例である。

すなわち米国は、脱炭素といった地球環境問題でも、人権問題でも、地球的規模の課題に対して真に先導するだけの説得力がないのだ。

以上のような要因に加え、歴史的に見て米国は単独行動志向、孤立主義志向の国であることにも改めて着目したい

大事なところで不成功に終わっている米国の軍事作戦

米国は、長きにわたりヨーロッパ諸国など世界の紛争から距離を置いてきた。これは、「モンロー主義」と呼ばれた。

そもそも米国の建国の契機となったのは、宗教戦争などヨーロッパ諸国の争いを嫌った人々が新大陸に移住したこと。米国という国の成り立ち自体が、他国の覇権争いや紛争には介入しない孤立主義的、単独行動志向なものであった。

それが変わったのは日本の真珠湾攻撃と戦後の冷戦によるソ連の台頭だ。真珠湾攻撃に衝撃を受けた米国は、世界の覇権争いや武力紛争を無視できなくなった。ソ連の核兵器保有などは、米国の安全保障に直接の悪影響を与えると考えるようになった。

しかし、ヴェトナム戦争やイラク戦争、さらに昨年撤退したアフガニスタンでの反タリバン戦争のいずれも成果を上げたとは言いがたい。イラク戦争ではフセイン政権打倒には成功したが、その結果、国際テロ組織アルカイダや過激派組織「イスラミックステート」などテロリストの台頭を招いた。

世界の覇権国のようで、実は米国の軍事作戦は大事なところでは敗北ないしは不成功であることが多い。

その米国を見ると、昨年のアフガニスタン撤兵を一つの象徴として単独的な行動に戻る可能性が高まっている。中東に対する関与を減らしていくという方向性は、民主党、共和党に関係なくオバマ政権から一貫している。

以上を基に、いかなる方向に行くのか、我々はいかに対応すべきかを考えてみたい。

国際政治の模範としてのEU

第一に、米国は21世紀型の「モンロー主義(孤立主義)」に向かう可能性がある。

もちろん、グローバル化が大きく進展した21世紀においては、第二次大戦前のような孤立主義はありえない。国連、G20、G7といった枠組みに米国は当然参加し、影響力を行使するであろう。

また、中国との「新冷戦」への対応として、中国に対して厳しい措置を取ることは間違いない。一方の中国も、経済・ビジネスと政治の両面において世界で影響力を高めるだろうが、ウイグルにおける人権侵害を含めた中国政府の強権的な性質は国際社会の模範にはなりえない。

アメリカはアメリカ的価値観と普遍的価値観を混同しがち」(フランス人地政学者パスカル・ボニファス、『現代地政学:国際関係地図』)であるため、自国の価値観に合わないと普遍的でない、地球的課題として重要でないとして消極的になるのだ。

第二に、国際政治の模範としてEUの影響力が上がることだ。

世界に影響力のある巨大IT企業は多くなく、また移民問題で揺れている面はある。しかし、EUは全体としてみると、人口は米国を上回っており、GDPも経済力も米国に匹敵しうる規模だ。気候変動問題でも、国境炭素税の導入をはじめ積極的なのはEUである。再生可能エネルギーの導入にも積極的である。

EUの中核であるドイツは、第二次大戦の贖罪意識から長きにわたり国際政治への影響力行使に限定的であった。しかし、80年近くが経過して、その必要は薄まった。

17世紀のウェストファリア条約以降、第二次大戦後の時期を除き、ヨーロッパ諸国は常に国際政治の常に中枢に位置してきた。21世紀には米欧の国際政治における影響力が入れ替わるかもしれない。

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