Biden’s 1st Year: Steep Path to Restoring the US

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横紙破りの大統領が去った1年前の安堵(あんど)と希望を、多くの人々が遠く感じるのではないか。かつての超大国の威信は今なお回復されたとは言いがたい。

 ジョー・バイデン米大統領が就任して20日で1年を迎えた。トランプ前政権下で深まった社会の分断は今も続き、現政権は苦悩のなかにある。

 野党との争いに加え、与党内の路線対立もあらわになった。公約の目玉だった温暖化対策と格差是正策を含む社会福祉投資法案は成立が見通せない。政権支持率も低迷している。

 就任当初は順調に見えた。先進国でもいち早く新型コロナのワクチン接種を本格化させた。閣僚や高官に女性や少数派を多く起用し、多様性を重んじる刷新ムードを印象づけた。

 外交面では、トランプ氏が背を向けた国際協調と同盟重視への回帰を進めた。温暖化対策の「パリ協定」に復帰したことを国際社会は歓迎した。

 だが、その後の軌跡は下降線をたどった。特に批判されたのは、アフガニスタンからの強引な米軍撤退が招いた混乱だ。

 さらに、大型の財政出動や人手不足に伴うインフレが家計を直撃する。コロナ変異株による社会不安も続き、国民の視線は厳しさを増す一方だ。

 前政権が残した内政・外交の傷痕や、予測できないコロナ禍を考えれば、全責任をバイデン氏に負わせるのは酷だろう。

 国民の融和と結束。民主主義と専制主義の闘い。中間層のための対外政策――。民主大国のリーダーとして理念や世界観を打ち出すのは当然だ。

 問われるのは、それらの具体的な意味と実現への道筋を丁寧に示し、実行できるかだ。前政権の過ちを正す以上に、バイデン政権ならではの手腕を感じさせる成果はまだ、ない。

 アフガン撤退では、同盟国との事前の調整は尽くされなかった。自由貿易を促す国際通商体制を率先して立て直す姿勢も見えない。

 前政権のような不確実性は薄れたとはいえ、米国は真に自国第一主義と決別したのか、今後の秩序の守り手として信頼に足るのか、国際社会は評価に悩むところだろう。

 米社会の亀裂は深刻だ。先の大統領選を不正とする主張に、多くの共和党員が同調する。1年前の議会襲撃事件が象徴する民主主義の危機に真剣に向き合わねば、米国の国際的な退潮傾向は止められないことを与野党ともに認識すべきだ。

 バイデン氏は就任演説で「互いの声に耳を傾けよう」と説いた。その初心を忘れず、対話による分断の克服をめざし、米国の民主政治を再生してほしい。

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