Strengthening the US-Japan Alliance: Danger of Overemphasizing Deterrence Ability

<--

日米同盟の強化 抑止力の偏重では危うい

今年に入り、北朝鮮による日本近海に向けたミサイル発射が続く。東アジアでの中国の軍事活動も盛んだ。日本の安全を脅かす動きに備えるのは当然としても、抑止力の強化が地域の緊張をさらに高めぬよう冷静な判断と慎重な対処が重要である。

 岸田文雄首相は先週、バイデン米大統領とテレビ会議方式で初の本格的な首脳会談に臨み、「日本の防衛力を抜本的に強化する決意」を伝えた。今春、日米豪印の首脳会合を日本で開催することでも合意した。

 両首脳が見据えるのは軍事、経済で台頭する中国だ。新型コロナ禍は中国が物品の国際供給網を握り、影響力を強める現状を浮き彫りにした。軍事転用の恐れのある先端技術の管理も喫緊の課題である。今回、外務・経済担当閣僚会合を新設し、経済安保で連携する方針を掲げたのも危機感を共有するからだ。

 日米は首脳会談に先立つ外務・防衛担当閣僚会合で「緊急事態に関する共同計画作業」の進展を確認した。台湾海峡有事を念頭に置いたものだろう。在日米軍、自衛隊施設の共同使用の促進をうたい、中朝やロシアが開発を進める極超音速ミサイルなどの最新兵器に対処する共同研究協定にも署名した。

 懸案だった在日米軍駐留経費の日本側負担「思いやり予算」の増額問題も決着させ、2022年度から5年間で総額1兆551億円を見積もった。政府は新たに米軍の訓練費などを含めて「同盟強靱(きょうじん)化予算」と名付け、批判をかわそうとしている。

 さらに看過できないのは、岸田首相がミサイル攻撃を相手国領域内で阻止する「敵基地攻撃能力」の保有を含めて議論するとしている点だ。バイデン氏にも会談で伝えた。どのような能力か首相は具体的な言及を避けるが、「専守防衛」という戦後日本の国是を転換させるものだけに慎重な議論が必要だ。

 日本を取り巻く安全保障環境を考えれば、米国との同盟関係を強化し、抑止力を一定程度、高めることはやむを得ないだろう。だが軍事偏重は中国や北朝鮮を逆に刺激し、不測の事態に至る危険性をはらむ。

 問題は、米国が要求する負担増に応じる一方で、緊張緩和に向けた日本独自の戦略がほとんど見えないことだ。特に中国とは岸田首相が就任直後、習近平国家主席と電話会談をした程度で対話に乏しい。中国への働き掛けを強めてもらいたい。

 政府は「国家安全保障戦略」など安保関連3文書の改定を年内に行う方針で、今週、本格的な検討作業に着手した。安保政策の重要な節目である。国民に対する丁寧な説明と同時に、国会での熟議を尽くしてほしい。

About this publication