The Ukraine Crisis, Inflation, Tightening and Beyond: The Global Currency Crisis and Stock Market Crash

<--

ウクライナ危機、インフレ・引締めのその先は世界通貨危機に株価暴落

台湾の隣の日本円は低リスクにあらず

国際金融市場を長年見てきたが、最近、通貨を中心とした経済危機の発生する可能性の高まりを感じる。ロシア関係などの地政学的リスクが高まっている事、そして、世界的なインフレ及びその処方としての金利引上げにより景気が悪化し始めている事、この2つの事象により、いわゆる「質への逃避」が発生し、新興国から先進国へと、資金が逆流する可能性が高まっているからである。

新型コロナによるインフレと金融引締め

新型コロナウイルスの感染拡大による悪影響、いわゆる「コロナ禍」は、モノの生産(および流通)を停滞させることとなった。消費サイドも縮小しているとはいえ、生産サイドはそれ以上に縮小し、バランスを崩し「モノ不足」として「インフレ」(継続的な物価上昇)が進行した。このような生産サイドの縮小によるインフレは、石油ショック以来で約40年ぶりである。

国の「経済」には2つの軸がある。「景気」と「物価」である。景気(経済成長)は、その成長率をGDP(国民総生産)の伸びで、物価の上昇率はCPI(消費者物価指数)の上昇で測る。経済の世界には「暗黙の目標」というものがあり、経済成長率が3%、物価上昇率が2%である。

経済成長の構成要素に人口があるが、先進国ではもはや人口は増加せず、経済成長の目標(3%)は、通常では達成が困難となり重視しなくなった。

しかし、物価上昇率だけは「どの国でも」目標として使用する。どの国でも、どのような経済状況であっても、「いつも」2%が目標である。

その物価上昇率であるが、現在、主要国で軒並み急上昇している。昨年12月に、米国が7%、欧州が5%、日本も携帯電話を除き2%となっている。このことから米国や欧州は、インフレを鎮圧するために、金融政策で量的緩和の縮小および金利の引上げ(引締め)を開始せざるを得なくなっている。

為替相場は、ほかの市場と比べて金利の影響が非常に強い。米国の金利が高くなり、日本との金利差(日本から見れば高金利)に引かれて、ドル高円安が進行する。日本は少なくとも米国と同じペースでの利上げはできず、今後も基本的にはドル高円安基調で推移することになろう。日本経済はまだ円安=資金の流出=通貨価値の減少にも耐えることができている。

しかし、新興国をはじめ、多くの国は為替相場の大きな下落を望まない。それは資金の流出(逆流)につながるからである。そのため為替相場を安定させたい国は、金利の動きを米国と同調させることになる。

ここで、経済が十分に安定していない国が金利を引上げると、成長に水を差し、逆に悪化させる可能性が出てくる。いわゆる「オーバーキル」の状態である

ウクライナ情勢がもたらすリスク

ロシアは、ウクライナ国境に10万人規模の軍隊を配置しており、「地政学的リスク」が高まっている。ロシアは2014年にもクリミア半島を併合しており、今回も侵攻し併合する可能性は否定できない。

ポーランドなどの旧東側欧州諸国がEU(欧州連合)に参加し経済的な大発展を遂げた。ウクライナは旧ソ連の構成国であり、過去にはロシアとは兄弟国とまで言われたが、そのような東欧諸国の動きを見ており、西側のEUそして軍事同盟であるNATO(北大西洋条約機構)への参加の意思は強い。

今回のウクライナ問題に対し、NATO側も4万人の軍隊を配備し、にらみ合いの状況を呈している。この状況は、第1次・第2次世界大戦の欧州の緊張(にらみ合い)と近い状況ではないか、と認識している。

この寒い季節で、ウクライナの気温は-10~0℃程度であり、軍隊としても状況はきつい。特に、第1次世界大戦末期の欧州ではインフルエンザ(スペイン風邪)が最前線で大流行し、戦争終結の一因となった。今回は新型コロナウイルスが流行していることも似ている。

ウクライナ戦線の硬直化は、かつて第2次世界大戦前にあった、独仏間の「マジノ線(要塞)」のように、次々と防衛が強化されていき膨大な費用を使うことになる。市場では、ロシアへの経済閉鎖と危機を予想し、すでにロシアからいったん資金が引き揚げられ「ロシア国債」は下落した。

戦争ではなく資源こそがロシアの戦略

今回、ロシアが取っている戦略は、実は戦争としての侵略・占領ではなく、欧州への「資源供給制限」である。市場はすでにそれを感じ取っており、実際の戦闘が行われていないということで株価の下落も止まった。

欧州は燃料(資源)を天然ガスをはじめロシアに依存している。現在、ロシアは西側諸国の動きに対し、ノルドストリームをはじめとする欧州へのパイプラインなどでの供給を絞る懸念が高まった。その動きは天然ガスなどの資源が不足し価格が高騰し、さらにインフレが進行した。すなわち40年ぶりの「石油ショック」が発生しているのである。ロシアの思惑通りに動いていると言わざるを得ない。

モノは価格の変動で需給を調節するが、欧州の資源不足はそのようなレベルを超えて危機的状況となっている。資源を海外に頼っている日本ですらも天然ガス(LNG)を欧州に救援物資として送る始末である。

さらに高まる新興国の危機

消費者物価(CPI)の構成要素として、燃料(資源)の要素の割合は大きく、世界的なインフレ率はさらに高くなる。インフレ率が高まるということは、米国を中心として、金利の引上げが大幅になるということである。新興国のオーバーキルの度合いも強くなっていく。

一般的に、金利の引上げなどの金融政策の予想というものは、日に日にきつく(高く)なっていくものである。実際、米国の現在の金利の引上げ(回数・幅)予想は、日に日にきつくなっている。

現在の予想では、3月で量的金融緩和が終了、利上げを開始する。回数は年内4回、通常、金融政策では0.25%刻み(ノッチ)であるが、一回目は0.5%引き上げるというものである。それでも年末には合計1.25%の引上げ幅である。

このような状況は経済基盤の弱い新興国にとってみて大変辛い。ラテンアメリカのアルゼンチンは昨年のインフレ率は50%を超えている。すでに経済・財政が危機的状況となり、IMFに援助を依頼した。

経済・通貨危機が発生しやすいのは、米国が金利を大きく上げてくる現在のような局面であるが、分かりにくいのは米国の危機ではなく、距離的に“離れた”新興国が危機に陥る点であり“視点”として十分注意をしなければならない。

最初のうちは、新興国は金利の引上げや為替の介入によって、市場の安定を図っていこうとする。その時に、新興国の実力の為替相場と現在の為替相場のギャップが拡大していく。最終的には、市場は資金逃避によって、このギャップ(無理)を下落させることで一気に埋めることになる。これが「通貨危機」の基本的な仕組みである。通貨危機とは資金逃避、すなわち金融市場全般から資金の流出であり、株価などの下落をもたらす。

日本円は基本的に変動相場制であるが、筆者は、最近のこのコーナーの原稿で書いたように1ドル120円の「岸田ライン」が防衛線となっているとみている。しかし、実は、新興国は、経済的関係が近い米国や欧州の通貨である米ドルやユーロ等と固定的な通貨制度を採用している国がほとんどである。

その固定ということに、そもそもの無理がある。経済の違う主体は生き物で、その性質も成長率も違う。先にも言ったがギャップが生まれることとなる。そこに大きな経済的ストレスがかかると、固定的な関係が “崩壊”の危機に至る。

台湾に近接するという日本円をめぐる状況

日本は為替相場に関しては、伝統的に「円高」に悩む長い歴史があった。それは日本経済が成長期に、輸出の拡大が経済を支えていた時期があったからである。最近まで、円安やインフレになることが望まれていた。

しかし、時は流れ、日本経済が成熟期を迎えてくると、過度な円安やインフレは望まれているとは限らない。現在、円安やインフレになりつつあるが、このような状況になると、あれほどあった円安やインフレの願望説は影を潜めた。

北京五輪で一時的に市場は平静を装っているが、ロシア・ウクライナの問題に加え、世界の東側では中国と台湾の地政学リスクが同じく高まっている。

ちなみに、最近、「日本円」は急激な円高に見舞われることが少なくなってきている。それは台湾が日本に近いからである。日本もその地政学リスクの対象地域に入っているというわけで、逃避的な資金の流れは向かわなくなり、いわゆる「低リスク通貨」ではなくなってきているというわけである。

About this publication