Is It Correct To Say that Japanese Stocks Continue To Rise Because of the Significant Depreciation of the Yen?

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「日本株は大幅な円安だから上昇継続」でいいのか

1ドル=120円超のドル高円安が示唆すること

足元の主要国の株価指数は、やや上昇スピードが速い感はあるが、おおむね前回のコラム「『日本株はウクライナ長期化でも大底圏』」と読む訳」で展望したような動きとなっている。

同コラムで述べた要点は以下の2点だ。

(1)終値ベースでは、日経平均株価は3月9日の2万4717円、ニューヨーク(NY)ダウはその前日の8日の3万2632ドルが最安値だったと判断

(2)今回の底入れ後、株価は長期上昇トレンドに戻る

なぜ株価は3月上旬で底をつけたのか

株価が再び長期上昇トレンドとなった背景については、ぜひ前回コラムをご参照いただきたいが、主な論点としては以下を挙げた。

・エネルギー価格が青天井で急騰を続け、世界経済がスタグフレーション(インフレと景気後退の同時進行)に陥るとの説は、悲観的すぎる

・アメリカの債券市場は、少なくとも向こう1年間、景気が減速(プラス成長率でも低下)しても後退(成長率がマイナス)とはならないことを示している

・日米の中小型株の底固さ(ただし東証マザーズを除く)も、投資家が中小型企業の業績リスクを懸念するより「長期的な利益成長性に賭けよう」との機運を抱き始めていることを示唆している

・アメリカの連銀はこれまでのエネルギー価格高騰が経済に与える悪影響も含めて諸データを注視し、判断しながら柔軟な対応をとるだろう

・台湾や南沙諸島で中国が冒険的な行動をとり、それが市場の悪材料になりかねない、という点については、ロシアがウクライナ情勢で当初想定以上に軍事的成果を挙げられていない一方で、欧米諸国などからの厳しい制裁で経済が窮地に追い込まれつつあることが、中国にとって「他山の石」となりうる

・日米のアナリストによる予想利益修正がリアルタイムで集計されており、アナリストコンセンサス(アナリスト予想利益の平均値)を見ると、向こう1年間の1株当たり利益は日米とも前年比で3割前後の増益が見込まれている

これらについてその後の補足をすると、まずエネルギー価格については、原油の国際指標であるWTI原油先物価格が1バレル=110ドル台前半と、高水準ながら落ち着いて推移している。

また、アメリカ債券市場の長短金利差を見ると、5年国債と10年国債の利回りが逆転したため大騒ぎする向きもいるようだが、2年債と10年債の差はまだ逆転していない。また、今後にそれが逆転し、過去と同様にアメリカ経済の後退や株価の下落を知らせる前兆となったとしても、景気悪化や株価下落基調が生じるのは2023年となる。

日米の中小型株は底固くなっている。ただ日本では、先週(3月21~25日)は海外投資家が全体観からの強気転換により、現物大型株を幅広く買った、あるいは指数先物を買い上げて、それが裁定取引を通じて東証1部全般の株価を押し上げたと推察され、むしろ大型株の巻き戻しがいったん生じた。

とはいっても、日本株に対する明るい見解が広がれば、個別銘柄への買い姿勢も強まり、利益成長が期待される小型株へ資金が流入するだろう。

利上げ加速でも、アメリカ経済の回復基調は揺るがず

一方、アメリカの連銀は量的緩和を終了、利上げを開始した。その後、18日にクリストファー・ウォラーFRB(連邦準備制度理事会)理事とジェームズ・ブラード・セントルイス連銀総裁、21日にはジェローム・パウエルFRB議長の発言が報じられた。

各人とも今後の利上げ幅の拡大を示唆する内容ではあったが、「利上げを加速してもアメリカ経済の回復基調は揺るがない」という主旨を述べた。このため株式市場は、かえって景気の先行きに自信を深めたようだ。

さらに、アナリスト予想平均値に基づく1株当たり利益については、日本(東証1部全体)では、25日時点でも向こう12カ月間(2023年3月期に相当)は33.9%増益が予想されている。アメリカのS&P500採用銘柄ベースでは、同じく28.5%増益見通しだ。

ウクライナ情勢を踏まえて中国が今後どう動くかは不透明だが、前回指摘したそれぞれの要因についても、想定に沿った状況であると考える。

さて、当コラムでは、あまり円相場について述べてこなかったが、筆者が年初に唱えていたドル円相場の見通しを覚えておいでの方も多いかもしれない。

その見通しとは、「世界的な株価下落が年前半に進むため、リスク回避のための円高の様相が強まり、1ドル=100円近辺へのドル安円高となりうるが、その後は株価の回復でドル高円安に転じ、115円近辺に達する」といったものだった。

ところが実際には、せいぜい113円台までの極めて限定的な円高にしかならなかった。それどころか、足元では一時122円台をつける円安に突入している。これについては、見通しを完全に誤った。

1ドル=130円はいきすぎでも、なお円安継続も

今後の見通しについては「現状からさらに若干のドル高円安となる、あるいは現状並みの相場が長く続く」ものの、「1ドル=130円などの大幅な円安が進むとは見込んでいない」という結論だ。

まず、大幅な円安が進むとは見込んでいないという点についてだが、さまざまな分析では、すでにドル高円安がいきすぎていると解釈できる。

日米の物価水準が全般に同程度になるドル円相場を試算したものが、購買力平価だ。実際の円相場は購買力平価から2割以上上下にずれることがあったので、目先の相場見通しを立てるうえでは購買力平価はあまり役に立たない。ただ、過去は多くの期間、プラスマイナス2割の乖離内で円相場が推移していた。長期的な水準の議論はできるだろう。

この購買力平価から実際のドル円相場の乖離率を見ると、今年2月の月中平均では32.0%もの円安方向への乖離となっている。実は過去の乖離率の最高記録は1982年10月の28.4%で、今年2月以外に3割を超える円安方向への乖離が生じたことはなかった。

つまり、日米物価と比較考察では、過去最高水準の円安・ドル高がすでに生じてしまっている(したがって、今後一段の円安の余地は限られている)と考える。

一方、ドルの側から足元の相場を考えると、ドルの名目実効レート(諸通貨に対するドル円相場の加重平均値で、ドルの総合的な強弱を示す)が参考になる。ここ近年は「リスク回避のための円高」のお株を奪うような「リスク回避のためのドル高」が目立つ。

その背景は、世界全体の経済や証券・金融市場を見渡せば、やはりアメリカへの投資が相対的に最も安心感があることだ。したがって、世界のどこかで何かのリスクが台頭すれば、危ういと思われる国から資金を引き揚げ、アメリカに投じるという動きが顕著になっているのだろう。

過去、そうした意味合いでのドル高がかなり進んだのは、2020年3月のコロナ禍の渦中であった。足元のドルの名目実効レートは、当時の水準にはまったく及ばないが、2021年半ばからのドル高傾向により、新型コロナウイルス感染症の流行が最も懸念された時期を除けば、ドルの総合的な水準は過去最高に近い。

つまり、ドルはすでにかなり高値まで買われてしまっているといえ、もし円安が一層進むのなら、対ドルより対ユーロや対豪ドルなど他通貨に対してのほうがまだ余地がありそうだ。

為替の「日本売り」が日本株にも及ぶ懸念

以上から、円安が対ドルで進んでも大幅なものにはなりにくいと見込んでいるわけだが、一方で、まだもう少しドル高円安になる、あるいは今のような水準の円安が続いてしまうという可能性も高いと予想する。

足元で世界の投資家の間で最も話題になっていると感じるのは、日本と他国の金融政策の差による、「日本売り」的な様相だ。その金融政策の差は、直接的には欧米主要国が緩和縮小を進める一方で「日本銀行が動かない」ということにあるが、世界の投資家はむしろ「日銀が金融政策を変えることができない、情けない日本」とみなしつつあるようだ。

その日米の差の背景は、2月14日付の当コラムでも述べたとおりだ。まとめると、以下のようになる。

アメリカでは、企業はこれまでと同様、コスト増を販売価格に躊躇なく転嫁し、企業収益を防衛する。そのため、家計は「値上がりが続きそうだから、今のうちに買おう」としがちで、例え手元の現金が不足していても「賃金が上がっており、クレジットカードやローンで購入しても、将来の所得増で容易に返済できるだろう」と考える。

一方の日本では、企業は「値上げすれば売れ行きが落ちる」と懸念し、「企業努力」により値上げを極力回避しようとする。結果として、企業収益が圧迫される。加えて、この「企業努力」には従業員の賃金抑制も含まれる。そして家計は、大幅な賃金上昇を見込みにくいため、企業が耐えきれずに価格を引き上げると、「節約に努め、購買を大いに削減しよう」と防衛的になりやすい。

今後の日本の株価に話を戻すと、世界的な株高につれて上昇基調をたどるとは考えている。だが、為替市場における「日本売り」が株式市場にも広がり、日本株上昇の速度が抑えられることが、いつかは起こるかもしれない、と心配している。

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