〈社説〉米が臨界前実験 核軍縮の後退を止めねば
核廃絶に逆行する動きが強まるばかりだ。米国が昨年、2度にわたって臨界前核実験を行っていたことが明らかになった。
バイデン政権下でも核戦力の近代化を推し進める姿勢に変わりがないことが浮かび上がる。臨界前実験は、核爆発を伴わないものの、核兵器の性能の評価や改良を目的とする。ネバダの地下核実験場での昨年の実験は、トランプ前政権下の2020年に行った初回と一連のものだ。
東西冷戦の終結後、米国は新型核弾頭の開発を中断していたが、トランプ政権は方針を転じた。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に搭載する新たな核弾頭の開発に乗り出し、バイデン政権はそれを引き継いでいる。
核弾頭を搭載する新型空中発射長距離巡航ミサイル(LRSO)の開発や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の更新も進め、2080年代以降まで核戦力を堅持する長期計画を維持する。核軍縮を主導する姿勢は見えてこない。
核戦力の増強や役割の拡大を打ち出したトランプ政権の戦略の見直しはしぼんだ。バイデン政権が概要を公表した新たな核戦略は、同盟国への「核の傘」による拡大抑止を最優先事項とし、従来の核政策から踏み出していない。
一方では、米国と並ぶ核大国のロシアがウクライナに侵攻し、核の使用をちらつかせて脅しを繰り返している。中国の核戦力の増強も著しい。核の力に核で対抗する動きが、歯止めのない核軍拡につながりかねない状況だ。
核軍備をめぐる米ロの「戦略的安定対話」は途絶え、中国を加えた対話への道筋も開けてこない。保有国に核軍縮を義務づけた核拡散防止条約(NPT)体制は、瓦解(がかい)の瀬戸際にある。
英国、フランスを含む五大保有国が、核戦争の回避と軍縮を最大の責務とうたう共同声明を出したのは1月だ。核兵器の役割を抑止に限定し、NPTが定める核軍縮の義務を果たすという誓いは、何の重みも持たなかった。
NPT体制の下で核廃絶が棚上げにされ続けることへの国際社会の強い異議申し立ては、核兵器禁止条約に結実した。第1回の締約国会議が6月に開かれる。
核軍縮がずるずると後退していくのを黙って見過ごすわけにいかない。核の脅威が切迫する状況だからこそ、絶対的な禁止を国際法として明示した条約をよりどころに、廃絶への取り組みを強めなくてはならない。被爆国の日本はそれを率先すべき責任がある。
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