米国の核戦略 抑止力一辺倒では危うい
毎日新聞 2022/4/7 東京朝刊 866文字
核戦争の恐怖と隣り合わせの時代に入りつつある。どうすれば惨劇を回避できるか。議論の土台となりうる戦略指針をバイデン米政権が公表した。
国防総省の「核態勢見直し」である。クリントン大統領以降、歴代政権が策定してきた核戦略の報告書だ。
公表された骨子では、米国、同盟国、友好国への核攻撃を阻止することが核兵器の役割と定められた。強力な通常兵器や生物・化学兵器、大規模なサイバー攻撃を受けた場合の使用も想定されている。先制使用も排除していない。いずれも従来の方針を踏襲した。
一方で「核兵器の役割を低減させる」ことも明記し、軍縮を主導する姿勢を示した。だが、バイデン大統領の持論である「核兵器の先制不使用」は封印した。
ウクライナ侵攻後にロシアが核部隊の戦闘態勢を整えたと発表したことも背景にあろう。米国の核戦力はロシアに使用をためらわせる抑止力を持つとされ、同盟国はその「核の傘」に依存している。
核兵器の量産化や技術開発を進める中国の動向も考慮したとみられる。北朝鮮の核・ミサイルとともに日本にとって深刻な問題だ。
だが、核への依存が強まるばかりでは危険はより高まる。この流れを食い止めなければならない。
ロシアは1月に「核戦争は起こさない」とする米英仏中との共同声明に名を連ねたが、侵攻と「核の脅し」で信頼を失った。米露の軍縮交渉は当面動かないだろう。
重要なのは国際社会の行動だ。国連総会で侵攻直後に採択された対露非難決議では、核を巡るロシアの威圧的な姿勢も非難した。
今夏には核拡散防止条約(NPT)再検討会議が開かれる予定だ。核管理の透明性を高め、リスクを低減し、軍縮を促進する機会と位置付ける必要がある。
米国は核管理体制の再構築に指導力を発揮しなければならない。そのプロセスにロシアや中国を取り込むことを模索すべきだ。
米中露が開発にしのぎを削る核弾頭搭載可能な極超音速兵器は従来の規制の対象外だ。どう管理するかも新たなテーマだ。
核戦争リスクを減らすには、抑止力一辺倒ではなく軍縮を組み合わせたアプローチが求められる。
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