<社説>米国と中東 人権外交の後退では
バイデン米大統領が初の中東歴訪を終えた。サウジアラビア皇太子との会談では人権面での後退が目立ち、パレスチナ和平の進展もなかった。米国は人権や民主主義重視の原則に立ち返るべきだ。
今回の歴訪は、成功とはほど遠いと評さねばなるまい。
バイデン政権はトランプ前政権とは対照的に、外交でも人権や民主主義を前面に掲げた。特にその違いが明白になったのは湾岸の盟主サウジアラビアへの対応だ。
サウジの実力者ムハンマド皇太子を批判したサウジ人記者、カショギ氏は二〇一八年、サウジの情報機関に殺害された。
当時のトランプ政権は事件から距離を置いたが、バイデン氏は皇太子を「のけ者にする」と語り、後に皇太子の関与を示唆する米情報機関の報告書も公表。これを機に両国関係は冷え込んでいた。
だが、ロシアのウクライナ侵攻で、米国内でもガソリン価格が急騰。十一月に中間選挙を控えるバイデン政権にとって価格抑制は急務だが、原油増産の余力はサウジにしかなく、「油乞い」がサウジとの関係修復を迫った形だ。
バイデン大統領は皇太子との会談の冒頭でカショギ氏事件を取り上げ、強く批判したとしているが、皇太子は事件との関与を否定し、逆に米国もイラン、アフガニスタンで人権を侵害したと反論した。
原油増産についても確約は得られず、会談で事件の「みそぎ」は済ませたというサウジ側の宣伝ばかりが目立つ結果となった。
最初の訪問国イスラエルでも、国連などの場でのイスラエル非難を拒むことで合意する一方、パレスチナとの和平交渉再開に向けた提案はなかった。米国内のユダヤ人団体を意識した対応だろう。
しかし、サウジもイスラエルも人権侵害の体質は何ら変わっていない。米国の人権原則の後退がロシアや中国に対する包囲戦略と矛盾することは明らかだ。国内事情を優先した二重基準は世界に不信の種をまきかねない。
米国は民主主義陣営の指導的な役割を自負する以上、目先の利害で原則を揺るがすべきではない。
Leave a Reply
You must be logged in to post a comment.