社説[元駐機場に防錆施設]負担減に逆行 中止せよ
2022年7月16日 09:39
基地機能の強化につながりかねない。負担軽減に逆行する移設は中止するべきだ。
米軍が嘉手納基地内に、航空機の腐食防止作業のための「防錆(ぼうせい)整備格納庫」建設を計画していることが分かった。
格納庫は現在、滑走路の北側にある。老朽化して手狭になった施設を取り壊し、大型の航空機がすっぽり入る、高さ30メートルの施設を新たに造る計画だ。
移設予定地は「パパループ」と呼ばれる元駐機場内で、住宅地からわずか150メートルしか離れていない。嘉手納町役場と国道58号を挟んで向かい合う形だ。
面積も、約3千平方メートルから約1万4千平方メートルと、4倍超に拡張される。航空機を洗浄したり、さびの処理加工をする施設のほか、腐食防止用の危険物質や有害物質を保管する倉庫も併設する。
町が知ったのは5月末だという。しかしすでに予算が計上され、米議会で承認されれば来年10月には着工される。
航空機の洗浄などには過去、有機フッ素化合物PFAS(ピーファス)を含む工業製品が使用された。
嘉手納町は、PFASなどの有害物質が流出したり、航空機の騒音や排ガスなどの悪臭被害が増えることを懸念し、計画の即時撤回を求めている。
県内ではいまも、米軍基地周辺の地下水からPFASが高濃度で検出され、大きな問題になっている。町が強く反対するのは当然である。
なぜわざわざ民間地に近い場所に移すのか。米軍は、現在地では航空機が移動する際、滑走路をまたがらなければならないことを理由に挙げる。あくまで軍の都合であり、周辺住民への配慮はない。
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パパループの近くにはかつて、住民が騒音や悪臭に苦しんだ海軍駐機場があった。1996年に日米特別行動委員会(SACO)で合意され、20年余を経て、5年前にようやく民間地から離れた滑走路近くに移転した。
やっと被害がなくなったと、胸をなで下ろした住民も多いはずだ。
海軍駐機場の移転にかかった約157億円は、日本政府が負担した。原資は国民の税金である。
一方、パパループは数十年使われていなかったが、2019年から、別の工事に伴い一時使用され、今も使用が続いている。
「負担軽減」のそばから新たな負担が生まれている現状を見過ごすわけにはいかない。
住民の生活環境を守るため、日本政府は米軍に中止を求めるべきだ。
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嘉手納基地にはことし5月以降、外来機が頻繁に飛来している。嘉手納町や北谷町には住民から、騒音の苦情が相次いで寄せられている。
日米両政府は深夜や早朝の米軍機の飛行を制限する「騒音防止協定」を結んでいるが運用は米軍の裁量に委ねられ、約束は無いがごとくだ。
これが日本復帰から50年後の沖縄の現状である。
米本国と違い、県内では基地と住宅地が近接する。新たな負担が生じる施設の移設を認めるわけにはいかない。
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