〈社説〉ペロシ議長訪台 不測の事態を招く懸念
台湾海峡の情勢に悪影響を与えかねない。
アジア歴訪中のペロシ米下院議長が、専用機で台湾入りした。現職下院議長の訪台は25年ぶりである。
ペロシ氏は台湾の蔡英文総統と会談して「米国は台湾と団結する」と述べた。台湾への統一圧力を強める中国・習近平指導部を念頭に、台湾を支持する米国の立場を強調している。声明では「米国は一方的な現状変更に反対し続ける」とけん制した。
米国家安全保障会議のカービー戦略広報調整官は、記者会見で「米国が長年維持してきた『一つの中国』政策に変更はない」と述べてはいる。バイデン大統領も三権分立を尊重し、下院議長の訪台と一線を画す姿勢だ。
ただし、ペロシ氏はバイデン大統領と同じ民主党で、下院議長は正副大統領に次ぐナンバー3の高位だ。中国は「一体的な動き」ととらえるだろう。
中国側は反発し、外務省は「強烈な抗議」を表明。中国軍は実弾射撃を伴う軍事演習を、台湾周辺で4~7日に実施すると発表した。既に台湾海峡の中間線付近に軍用機や艦船を派遣している。
これに対し、米海軍も周辺海域に空母打撃群を配置し、台湾軍も警戒態勢を強化した。
中国が台湾への武力侵攻を想起させるような動きを強めれば、不測の事態を引き起こしかねない。互いに自制して対話のチャンネルを維持していく必要がある。
訪台が情勢を緊迫化させるのは分かっていたはずだ。
7月28日に行った米中首脳の電話会談では、習氏が訪台について「火遊びは自らを焼き滅ぼす」と警告していた。
それでもバイデン大統領が訪台を事実上容認し、ペロシ氏が強行したのは、米国内で対中強硬論が高まっていることが理由だ。
中国は驚異的な経済成長と急速な軍備増強で、米国を脅かす存在となった。訪台を取りやめれば中国の脅しに屈したとの批判を招きかねない。11月の中間選挙で民主党が苦戦すると予想される中、後に引けなかったのだろう。
中国側は、習氏が共産党総書記の3期目を目指す党大会を秋に控え、対米関係を安定化させたいのが本音とされる。新型コロナウイルス対応や経済失速といった難題にも直面している。
米国側も、ウクライナ危機が続く中で中国との対立を激化させる余裕はないはずだ。緊張緩和を最優先に対話を続け、互いの妥協点を見いだすべきだ。
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