冷戦の終結以降に積み重ねられてきた米国とロシアの協力の舞台が、また一つ失われてしまうのだろうか。
危ぶまれているのは、国際宇宙ステーション(ISS)計画である。ロシアが2024年以降に離脱すると表明した。
時期や方法などは不明だが、1998年に建設が始まったISSは、いつまで存続できるかが不透明になってきた。
通信、気象観測、GPSなど、宇宙空間の平和利用は現代の暮らしに欠かせない。この分野で圧倒的な力を持つ米ロは、宇宙での協調関係を保つ努力を最後まで続けてもらいたい。
高度約400キロの宇宙空間を巡るISSは米ロの他、日本、欧州、カナダが参加している国際事業である
このうち宇宙飛行士を運べるのは米ロだけ。11年にスペースシャトルが退役した後は約9年間、ロシアがその役割を独占した。ISSの高度維持や緊急時の乗員脱出などの重要部分を担ってきたのもロシアだ。
常に米ロの宇宙飛行士が滞在しており、命を預け合う関係を続けてきた。8年前にロシアがウクライナの一部を占領して緊張が高まった際、当時船長を務めていた若田光一氏は「地上では対立しているが、我々は宇宙では協力しているところを見せよう」と呼びかけたという。
この事業が終われば、宇宙環境での科学実験などができなくなるだけでなく、米ロの対話と信頼醸成の貴重な回路が失われる痛手も、はかり知れない。
ロシアは独自のステーションを開発するというが、資金面などから実現性は不透明だ。中国は自らのステーション「天宮」の建設を着々と進めており、そちらと連携する可能性もある。インドも、独自の計画に乗り出している。
日米欧と中ロが覇権を競い、インドが割って入るという地上同様の分断と対立の構図が宇宙でも進みかねない状況だ。
確かにロケットや人工衛星など、宇宙開発と軍事はもともと切り離せない関係にある。
ロシアの侵略を受けたウクライナでは、相手軍の動きの把握だけでなく、地上でのネット通信の確保や、戦況情報の真偽の検証にも、官民の人工衛星が大きな役割を果たしている。
大国同士が対立を深め、むき出しの軍事の論理を宇宙に持ち込み、破壊や妨害の連鎖を招くようなことになれば、世界の人びとの生活が揺さぶられる。
1960年代に国連総会で採択された宇宙条約は「平和目的の探査と利用」「全人類の共同の利益」を掲げる。この原則を踏まえた国際協力に立ち戻ることが何より求められている。
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